相続税が発生し、国への物納が進む雑木林(撮影当時。写真は本文とは関係ありません) (c)朝日新聞社 @@写禁
相続税が発生し、国への物納が進む雑木林(撮影当時。写真は本文とは関係ありません) (c)朝日新聞社 @@写禁

 相続する財産は、預貯金などの「もらってうれしい財産」ばかりとも限らない。不動産賃貸業を営んでいたBさんの夫が亡くなった。相続人はBさん、長男、次男の3人だ。評価額3億円の不動産が残された。一方で、4億円という多額の借金もあった。財産を上回る借金の返済義務を負わない限定承認を家裁に申し立てる方法も考えたが、Bさんたちは「相続放棄」の手続きをとることにした。

 借金返済の義務がなくなり安心していたところ、なんと夫がお金を借りていた債権者から債務の返済を求める裁判を起こされた。

「相続放棄したのに、なぜ……」

 Bさんは不思議がったが、実は、こういうことだった。夫の死後、夫名義の口座に振り込まれた家賃収入100万円をBさんが自分名義の口座に移し、生活費に充てていたからだ。

 なぜ、これで訴えられるのか。それは、相続放棄をした後に相続財産を隠したり、一部でも使ったりした場合は単純承認したとみなされ、借金返済の義務までも受け継いでしまう決まりがあるからだ。これを「法定単純承認」という。

 Bさんは、家賃が口座に振り込まれたのは夫の死後であり、夫の財産、つまり相続財産ではないと思っていた。だから裁判では、「死後に振り込まれた家賃収入が相続財産にあたるかどうか」が争点となった。

 裁判長は「相続財産にあたらない」という判断に傾いていたという。そのまま判決となれば、Bさんが勝訴する可能性が高かったようだ。

 しかし、生前の夫は借金返済も滞りがちで、債権者にもかなり迷惑をかけていたことが裁判の途中でわかった。このため、裁判長はBさんも借金の一部を返済することとした和解を提案し、Bさんも受け入れた。4億円の負債のうち、700万円をBさん側が支払うことで和解が成立した。

週刊朝日  2014年3月28日号