浅野史郎氏(左)と久坂部羊氏(右) (撮影/写真部・工藤隆太郎)
浅野史郎氏(左)と久坂部羊氏(右) (撮影/写真部・工藤隆太郎)

 がんに代表される重い病気や余命の宣告は、医師と患者双方が苦悩するもの。現役の医師であり、末期がん患者と若き医者の苦悩を描いた小説『悪医』の著者・久坂部羊氏と成人T細胞白血病(ATL)を発症し、骨髄移植を受けた元宮城県知事の浅野史郎氏の対談で、そのあり方を話し合った。

浅野:ATLを発症したと言われたときはそれはすごいショックでしたよ。その瞬間は目の前が真っ暗。でも1時間後に「おれ、この病気と闘うからな、かならず治る、だから支援してくれ」と妻に言った。そうしたら、その瞬間にすっと楽になって、病気のことだけ考える闘いモードになった。

久坂部:非常にポジティブに考えられたんですね。

浅野:それから、余命について、ぼくは最初、医者の説明を受けて「自分の余命は11カ月」だと受け取ったんです。これもすごくショックでした。ただちゃんと聞いたら病気の発症後11カ月までに亡くなる患者が全体の半分という意味でした。

久坂部:この病気の生存期間中央値が11カ月ということですね。個々人がどれぐらい生きるのかはわからないので、統計上の目安として申し上げています。

浅野:説明を聞いて、半分は11カ月以上生きていることがわかった。ぼくは絶対そちらの半分に入ろう、と思い直すことができた。

久坂部:小説にも書きましたが、医者は余命を短めに言うことも多いんですよ。余命半年と言って患者さんが4カ月で亡くなったら2カ月早く死んだと思われますが、余命4カ月と言って半年生きたら、2カ月がんばった、よかった、となる。医者の自己保身ですね。

浅野:患者の立場で言えば、それは許されませんよ。きちんと生存期間中央値とはこういうもので、この病気になった人の予後は統計的にこうなっていると説明してもらわなければ。

久坂部:ただ気が動転して、いくら説明しても理解できない人もいます。噛みくだいて説明して、理解してくれたかな、と思ったところで最後に「11カ月」という数字を言っても、患者さんは「余命11カ月」という印象だけを持ってしまうことも多いんです。

週刊朝日  2014年3月21日号