極端な個人独裁体制の北朝鮮では、もともと金日成(キムイルソン)・金正日(キムジョンイル)の時代から権力層内部の粛清がしばしば行われてきたが、それは金正恩にも受け継がれている。

 金正恩が世襲権力を継いでからの2年3カ月で、すでに多くの幹部が表舞台から姿を消した。なかでも目立つのは、北朝鮮社会で物理的な“暴力”という力を握る軍や秘密警察の実力者だ。独裁政権にとって、そうした勢力がもっとも警戒すべきものだからだろう。

 たとえば、11年12月の金正日の葬儀で霊柩車に付き従った当時の軍部トップ4は、すでに全員が更迭されたが、うち2人は事実上の粛清といっていい。

 国家安全保衛部のトップだった禹東測(ウドンチュク)・第1副部長(当時は部長ポストが空席)は、12年4月までに消息を絶った。病気などによる引退であれば、なんらかの情報が伝えられるはずなので、粛清は間違いないものとみられ、自殺説も流れている。

 そして軍部でナンバーワンだった李英鎬(リヨンホ)・総参謀長も同年7月に逮捕され、現在も監禁状態にあるとみられる。失脚の要因は、政敵だった張成沢との争いに敗れたことだ。

「李英鎬と張成沢は、故・金正日が息子の後見人に指名した“金正恩体制のビッグ2”だったが、すでに金正恩はその両者とも排除した格好です。ますますワンマン体制を強化しつつある金正恩は、これからも“出過ぎた杭”とみなした政権幹部を次々と粛清していくでしょう」(同前)

 その筆頭候補が崔竜海とされる。去就が注目される中、北朝鮮の朝鮮中央通信は3月7日、金正恩が朝鮮人民軍「第2620部隊」の飛行訓練を視察した写真を伝えた。

 女性兵士たちに囲まれてご満悦の金正恩の背後に崔竜海が写っていたのだ。

 この報道によって、崔竜海が健在であることが確認されたが、お供の激減から、崔竜海が金正恩に遠ざけられていることは明白。

 いつ粛清されてもおかしくない危うい立場にあることは間違いない。

週刊朝日  2014年3月21日号