先月、原発エネルギーを「重要なベースロード電源」と位置付ける旨を政府が決定した。作家の室井佑月氏は、政府のこうした「言葉による印象操作」について次のように話している。

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 新聞などを見ていると、「消費税増税」は「消費増税」という言葉に変えられ統一されたようだ。去年、ジャーナリストの斎藤貴男さんがこのことについて批判していた。「消費増税ではない。消費税増税というべきだ」と。

 だよね。消費増税っていうと、消費が増え景気が良くなったから税金を増やすという意味みたい。細かいことかもしれないが、言葉による印象操作の影響は案外大きい。だから、この国のエリートである役人は、ちまちま言葉を変えてくる。

 2月25日に、また新しい言葉が出て来た。それは「重要なベースロード電源」というもの。翌日の東京新聞にはこう書かれていた。

「政府は二十五日、中長期のエネルギー政策の指針となるエネルギー基本計画案を決めた。自民、公明両党が政権に復帰した二〇一二年の衆院選で掲げた『脱原発依存』の公約を無視。逆に、公約にない『重要なベースロード電源』と原発を位置付け、原発の維持・推進方針を明確にした」

 これからは原発エネルギーのことを「重要なベースロード電源」といい直さなきゃならなくなるのかしら。そして、この言葉が普及するようになったら、重要なエネルギーは原発で決定、ってことになってたり?

 以前、このコラムに書いたことがあるのだが、原発事故後、汚泥の問題が出て来て、それを無理矢理「スラッジ」と呼ばせたい輩が出て来た。汚泥をスラッジという呼び方に変えたところで、汚泥問題がなくなるわけではない。そんなところに頭を使っている場合か、腹立つ! それがあたしの感想だった。

 たぶん、この国の指導者たちは、問題解決にあたっての説明を国民にするのは、はなから面倒臭いとか、馬鹿らしいとか思っているに違いない。特定秘密保護法についても、集団的自衛権の行使についても、おなじように考えているのではないか。

 集団的自衛権の行使について反対すれば、「じゃあ、日本が他国に攻められたとき、どうするわけ?」という人がいる。

 でも、それは集団的自衛権の話ではなく、個別的自衛権の話だ。集団的自衛権とは、お仲間の国のために、日本人も海外で戦えるってことでしょう? もっとはっきりいえば、アメリカにいわれてってことじゃないのか?

 国際協力をしておけば、いざとなったとき日本も助けてもらえる、という人もいる。けどそれは、外交努力で日々頑張って欲しいところだとあたしは思う。そう思っている国民がいる以上、丁寧な説明が欲しい。

 集団的自衛権にしても、TPP参加にしても、言葉の言い換えにしても、この国の指導者たちは、楽をしたがっているようにしか思えない。結果は国民に押し付けるくせに。

週刊朝日  2014年3月21日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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