親の介護は女性の役割──そんな時代はもう終わった。今や、介護者の3人に1人が男性だ。しかし、まだまだ社会的認知度も低く、どこに問題があるのか、あまり把握されていない。男性が介護を担うとき、何に戸惑い、どんな壁が立ちふさがるのか、その実態を取材した。

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 木村幸一さん(仮名・64)が妻と別居生活を送るようになって、もう10年になる。きっかけは、木村さんの父親の死だった。

「家に一人残されたお袋は少し足をひきずっていて、耳も遠かった。一人では外出できない状況でした」

 母親は当時84歳。心配した木村さんは、自宅から電車で1時間ほどの実家へと移り住み、母親との生活を始めた。とりあえず落ち着くまでは、という気持ちだった。しかし、日が経つほどに、母親の耳は遠くなり、足も部屋の中で壁づたいに手をつきながら歩くほどに弱くなり、ますます目が離せなくなった。

木村さんは長男で、妻は一人っ子。妻は妻で、今年97歳になる父親の介護を実家でしている。必然的に別居し、それぞれが自分の親の介護を担うことになった。

 だが、木村さんは、「異性」としての母の介護の難しさを感じている。

 母は、食事やトイレなど、身の回りのことはほとんどできる。お風呂も一人で入る。介護というより、見守りを中心とした介助が木村さんの主な役割だった。ある日、仕事の都合でしばらく母を預けていた姉から電話がかかってきた。

「お母さん、もう一人じゃお風呂にも入れないじゃない。知ってた?」

 木村さんはショックを受けた。入っているとばかり思っていたからだ。母は足が弱ったため、一人で湯船に浸かることができなくなっているらしい。

「ずっと、入ってるフリをしていたみたいです。でもお袋にそのことを確かめても『入ってる』と言うし、女房が一緒に入ろうかと誘っても、『大丈夫、一人で入れる』と断る。気になって、女房が風呂場のドアを少し開けてみたこともあるんですが、ピシャッと閉められてしまった。気丈な性格なんですよね……」

 もし木村さんが娘なら、もっと気軽に風呂場をのぞいて確認できるかもしれないし、母親も遠慮なく助けを求められるのかもしれない。しかし異性ゆえに、互いに遠慮が出る。

週刊朝日  2014年3月14日号