汚染水漏れが止まらないタンク (c)朝日新聞社 @@写禁
汚染水漏れが止まらないタンク (c)朝日新聞社 @@写禁

 エネルギー基本計画案で原発を重要なベースロード電源と位置づけ、再稼働を目指す安倍政権。だが、福島第一原発は現在、制御不能の状態に陥っている。ジャーナリストの桐島瞬氏がその実情に迫った。

「誰も本当のことは言わないでしょう。幹部連中の間では、人為的なミスが続き、マスコミにたたかれていることが話題になっている。組織ぐるみで隠す方向に動くのではないでしょうか」

 福島第一原発(フクイチ)関係者がこう囁くのは2月19日に発生した100トンもの汚染水漏れ事故調査に関してだ。

 1リットルあたり2億4千万ベクレルという高濃度なベータ線(放射性物質)が含まれた汚染水が溢れ出たのは、深夜11時過ぎ。パトロールをしていた協力企業の作業員が、H6エリアにあるタンクの天井部分から液体が溢れているのを発見した。タンク内の水面を確認したところ、天板まで水位が上がり、継ぎ目(フランジ)から溢れた汚染水が雨どいを伝って地面に流れ出ていた。原因は、タンクに汚染水を流し込むバルブを誰かが開けてしまい、別のタンクへ行くはずのものが流れ込んでしまったためだ。すでにほぼ満水状態だったから、溢れてしまった。

 発見の9時間前には漏洩したタンクの水位警報が鳴っていた。しかし、計器の故障と判断し、タンクをのぞき込んで確かめるなどの対応を怠ったのだ。

 東京電力は2月28日までに42トンの汚染水と130立方メートルの土壌を回収。近くに排水路がないことから海へは流出しないというが、本当なのか。水文学を専門とする長崎大学の小川進教授は「地下水と混じれば、あっという間に海へ運ばれる」と指摘する。

「地表の汚染水は1時間に4ミリ、海岸に近い砂地であればその10倍の速度で染み込みます。第一原発には地下約30メートルに水流があり、そこへ高濃度汚染水が流れ込めば一気に海底へ運ばれて海水中に噴き上がる。周辺にある漁礁に影響を与えるでしょう」

 東電も「(汚染水が)地下水へ行く可能性は否定できない」(小野明福島第一原発所長)と認め、観測孔と汲み上げ井戸をつくることを明らかにした。

 昨年から相次ぐ汚染水漏れは、フクイチがまったくコントロールされていない状況を露呈した格好だが、今回はバルブを操作した人物さえ特定できていない。東電はバルブが開いた時間帯に現場周辺にいたと思われる119人に聞き取り調査を実施しているが、有力な情報は得られないままだ。

 驚いたことに、現場に設置された監視カメラには録画機能がなく、記録が残っていないこともわかった。トラブルが起きてから慌てて録画機能をつけるなど、相変わらず後手後手の対策が続いている。前出のフクイチ関係者が呆れて言う。

「今回の汚染水漏れは、もしかしたらテロの可能性だってある。なのに、東電は呑気すぎる。通り一遍の聞き取り調査をしても責任逃れのために当事者たちは口を濁すでしょうから、バルブを開けた人間を特定できない可能性もある。これだけ人為的ミスによるトラブルが続いているのだから、もっと引き締めないと、いつか大惨事が起きますよ」

週刊朝日  2014年3月14日号