第2次安倍政権が発足してから1年あまり。目立つは自民党ばかりで、一方の野党は日々存在感をなくしている。ジャーナリストの田原総一朗氏は、他国では見られない日本独特の構造が野党に損な役回りを強いている、と語る。

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 福島県郡山市で民主党の党大会が開催された。3.11の大震災、そして原発事故からの復興、被災者対策に責任を果たす決意を示すために、福島で催したのだということだ。

 その心意気は買うが、それにしても盛り上がらない党大会であった。民主党を責めるつもりはないが、野党が、これほど存在感を失った時代は、私が知る限りではなかった。

 例えば民主党は、「総がかりで戦う」と言うが、自民・公明連立政権と、戦う旗印は何なのか。民主党だけではない。みんなの党、結いの党、日本維新の会など、どの野党も自民党に脅威を覚えさせる野党でなくなってしまっている。国民を引きつける魅力がまるでない。自民党とはここが違うという、国民を引きつける旗印が見えないのである。いったい、なぜなのか。

 私は以前から感じていたのだが、日本の野党は損な役割をしており、それが際立ってきたということではないか。

 アメリカ、イギリス、フランスなど、かつて西側と称された国々には2大政党がある。保守党とリベラル党だ。アメリカでは保守は共和党でリベラルは民主党であり、イギリスは保守党と労働党で、いずれもほぼ交互に政権の座についている。

 そして、保守党は日本でいう新自由主義で、政府は市場に介入しない。つまり小さな政府である。ところが自由競争が続くと、格差というものが大きくなり、勝者は少数で、国民の多数が敗者となる。すると保守党に対する国民の不満が大きくなり、選挙でリベラル党が勝つ。アメリカでいえば民主党、イギリスならば労働党が勝つのである。そして、リベラル党は、格差を縮めるために、ある程度規制を設け、敗者、つまり弱者を救済し、保護するために社会保障、福祉などに力を入れる。いわば大きな政府であり、ざっくりいえばバラマキ政治である。

 民主党のオバマ大統領がオバマケアという弱者救済の医療保険制度を実施しようとしているのに、共和党が頑固に反対しているのは、まさにこの構造である。共和党は、自由競争、小さな政府で、弱者救済のために国民の税金を余計に使うのに反対しているのである。

 そして、大きな政府のリベラル党がバラマキをやりすぎると、選挙で保守党が政権に返り咲くことになる。ところが、日本の場合は、保守とリベラルの構造がねじれていて、保守である自民党が、小さな政府ではなく、大きな政府としてバラマキ政治をやっているのである。

 たとえばアベノミクスは、不況から脱出して景気をよくするために、公共事業に10兆円以上の国債、つまり借金を重ね、日銀は円をジャブジャブ刷った。典型的な大きな政府、そしてバラマキ政治である。弱者救済にも保護にも力を入れる。

 保守である自民党がバラマキ政治をやると、リベラルである野党各党は、一体何を旗印にすればよいのか。

 例えば民主党が政権の座についたとき、鳩山由紀夫首相は、「自民党の予算はムタが多い、だから民主党政権は初年度で7兆円予算を削減し、4年間に16兆円程度削減する」と表明した。何とリベラルの民主党が小さな政府を宣言したのである。そして、破綻(はたん)した。

 保守である自民党にバラマキ政治を取られて、野党群は、さて何を旗印にすればよいのか。ひたすら困惑しているのが現状ではないのか。

週刊朝日 2014年2月28日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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