2月上旬、都内で対談した中川李枝子さん(右)と宮崎駿さん(撮影/山本倫子)
2月上旬、都内で対談した中川李枝子さん(右)と宮崎駿さん(撮影/山本倫子)

 双子のねずみが主人公の絵本『ぐりとぐら』(福音館書店)が出版50周年を迎えた。作者で児童文学者の中川李枝子さん(78)と、同じく中川さんが手がけた『いやいやえん』など、一連の作品に強く影響された映画監督の宮崎駿さん(73)が2月上旬に都内で対談し、色褪せない“魅力”を語り合った。

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宮崎:『ぐりとぐら』発売の1年前、『いやいやえん』が出ましたよね。大きな衝撃でした。「子どもそのものが措かれている」と。僕より7歳若いスタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーも衝撃を受けています。

中川:私、作家になるつもりはなかったんです。日本一の保母さんになって日本一の保育園をつくりたいと。ある日、たまたま新聞で岩波少年文庫の編集者だったいぬいとみこさんの記事を見て、「大好きな本を作っている人だ!」と興奮した。ファンレターを送ったらお返事をいただき、「童話のグループの集まりがあるからいらっしゃい」と。くっついていたら、石井桃子さんにもお会いできた。当時、新しい子どもの本を出版するための研究会を作っていらしたんです。で、私が同人誌に『いやいやえん』を書いたら、石井さんがおもしろいと研究会で取り上げてくださった。石井さんが編集して1962年、福音館書店から発売されました。

宮崎:僕が『いやいやえん』に出会ったのは学生時代。一読してアニメーションにしたいと思いました。まだアニメーターになるかも決めてなかったのに。

中川:そうなんですか!

宮崎:中川さんの絵本の素晴らしさは教訓めいていないところです。ファンタジーの主人公は一般的に、冒険して帰ってくると賢くなっていたり成長していたりする。でも中川さんの場合は賢くならないまま(笑)。子どもが冒険して帰ってきて成長するって嘘ですよね。子どもはそんなに簡単に成長しないし、同じことを繰り返す。それが『いやいやえん』にも『ぐりとぐら』にもある。それが子どもの本当の姿だと思います。そういう物語はなかった。中川さんの作品が「役に立たなくてもいい」と教えてくれました。

中川:私は全部、子どもたちに教わったんです。何を書こうか悩んでいて、保育園で「お話作りをやらない?」と提案したら「やろうやろう」となって。私が「くじらとり」の話で口火を切ったら、次々に話が展開しちゃった。子どもたちに作ってもらったの。しめたと思い、その後も何度かやったんだけど、17年間で1本しかできなかった(笑)。

週刊朝日 2014年2月28日号