モルガン銀行東京支店長などを務め、“伝説のディーラー”の異名をとった藤巻健史氏。「いま政府と日銀がグルになってインチキっぽいことをやっている」と指摘する。

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 国が国債を発行し、日銀がその国債を「発行日当日に直接買い取る」ことを「引き受け」という。お金が必要になって国がどんどん国債を発行しても「その国債を必ず日銀が引き受けてくれる」のなら、国は打ち出の小槌(こづち)を手にいれたようなものだ。「それでは財政規律が崩れるから」と、財政法5条で日銀の「国債引き受け」を原則として禁止したのだ。過去に「日銀引き受け」を認めたことにより、ハイパーインフレに陥った苦い経験から出てきた先人の知恵である。

 そこで日銀は、最近まで国債を流通市場からのみ買い入れていた。発行日には民間金融機関のみが国から購入でき、日銀が購入できるのは、その国債が市場に出た後だった。この行為は国債の「買いオペ」という。流通市場から購入するのは「マーケットの洗礼を受けているから」という理由である。それが「引き受け」と「買いオペ」の差だ。

 黒田東彦(はるひこ)総裁による「異次元の緩和」以降、日銀は毎月発行される10年満期の国債の7割以上を市場で購入していると聞く。日本経済新聞2月7日付によると、30年満期の国債は1月に6千億円発行されたが、日銀がその半分以上、3733億円を買った。<あらかじめ日銀の買い入れに応札することを見越した入札が、新発債(発行して間もない国債) の需要を支えている面は大きい>というのだ。

 日銀が、発行後“すぐ”に国債を購入する。民間金融機関は日銀に転売してさやを稼ぐために国債入札に参加する。すなわち日銀が民間金融機関におこぼれを渡しながら発行日に国債を買っているのだ。なんだ、邦銀が昔、ロンドン市場で「外国銀行におこぼれを渡しながら実質発行日にユーロ円債を買っていた」のと同じじゃないか? これを「日銀の国債引き受け」と呼ばずしてなんと呼ぶ?

週刊朝日 2014年2月28日号

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藤巻健史

藤巻健史

藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中

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