カメラつき風船を天高く飛ばし、宇宙撮影に挑む若者がいる。札幌市の岩谷圭介さん(27)。映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の破天荒な発明家、ドク博士に憧れ、このたび成層圏の「初日の出」をとらえることに成功した。

 粉雪舞う北海道の十勝平野で1月1日午前5時半すぎ、直径2メートルほどの風船が放たれた。「ひので1号」という名の撮影機体は約2時間の“フライト”後、予測した通り、北東約200キロの雪原に落下した。

 機体内の全地球測位システム(GPS)の信号を頼りに回収し、マイクロSDカードを取り出した。撮影データの確認という「最高にドキドキする」(岩谷さん)瞬間。パソコン画面いっぱいに、高度3万メートルからの“真っ青”な朝焼けの動画が再生された。

「きれいでした。空気がほとんどなく、太陽光が拡散しないので、地上で見るオレンジ色ではなく、青なんです」(岩谷さん)

 撮影は動画とスチールどちらでも可能で、今回は動画を選んだ。試行錯誤の過去を振り返り、喜びはひとしおだったようだ。

 岩谷さんは北海道大工学部機械知能工学科4年に在籍中の2011年、ネットで米国の大学生が風船で写真撮影したニュースを偶然、目にした。<僕にもできないかな>。それが出発点だ。

 作り方に手本はなく、すべて独学。機体は球形や円柱型の発泡スチロール製で、内部をカッターでくりぬいたりレンズ用の穴をあけたりして、カメラやGPSをはめ込んだ。重さ300グラム前後。それをヘリウムガスで膨らませた風船につなぎ、11年10月、大学構内から1号機を発射した。

 風船は上昇するに従って徐々に膨らみ、直径4倍ほどの大きさで限界に通して破裂する。高度2、3万メートル。そんな所から落下するなんて危険じゃないの?

「大丈夫。雨粒よりもゆっくりなんです」。大気圏に突入後は空気抵抗が大きな減速装置となり、軽量小型の機体は木の葉のように落ちてくるという。

 今回で通算27号。様々な失敗を教訓に、涙ぐましい努力を重ね、カメラの固定具合や機体の形状を改良し続けた。

 例えば、マイナス50度にもなる宇宙で機械は動くのか。業務用冷凍倉庫に入らせてもらい「肺が痛くなった」。が、それでもマイナス25度。悩んでいたある時、アイスクリーム屋でテークアウトした袋の中のドライアイスを見て、何げなく温度を測ると「マイナス50度」。地上実験の“ブツ”が見つかった。

 いくら高度で撮影できてもデータを回収しないと意味がない。海中へ落ちれば“水の泡”。「だから果てしなく大地が広がる北海道が最適」と岩谷さん。実際、回収できなかったのは山中に落ちた2機だけで、それもGPSで位置は把握できていた。発射から10日後、海辺に漂着した機体を見つけた人が、そこに記された岩谷さんの携帯に連絡してくれた“幸運”も。費用は1機10万円程度。材料はホームセンターや家電量販店で調達、カメラ、GPSは回収できれば繰り返し使える。

「うまくいくの?」「時間の無駄だよ」と心配されながら、独りあきらめずに続けた結果、複数のテレビ番組に取り上げられ、13年度のACジャパンの地域キャンペーンのCMとして採用された。大学を卒業した岩谷さんは今、ウェブデザイナーとして生計を立てながら、ブログで製作過程や撮影画像を公開中だ。なぜ風船写真にこだわるのか。

「宇宙や地球の映像があまりに美しくて……。違うものを見たくて次、また次って」。山登りが好きな人の心境に似ているかもしれない、と自ら分析する。

 壮大な夢を追う岩谷さんに最近、新たな目標ができた。海の「深さ」だ。この夏、深海撮影に挑む。

週刊朝日  2014年2月21日号