悲願の金メダルを狙う浅田真央(23)が、重い決断を口にした。フリーで2回跳ぶ予定だったトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)を1回にすると明かしたのだ。これは何を意味するのか。元フィギュアスケーターで解説者の村主(すぐり)千香さんに読み解いてもらった。
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最近の浅田選手の言葉からは、かつてのようにジャンプに固執した姿勢は見られませんでした。自身が納得して決めたはずです。
もちろん、昨年のグランプリファイナル、全日本選手権で3回転半を2本入れて、後半に乱れが出たことは影響している。それを踏まえて、ソチで金を取るにはどうするか、佐藤信夫コーチと戦略を練り直した結果だと思います。
佐藤コーチに師事するようになって、スケーティングの質が飛躍的に上がりました。スピンが安定し、ステップでも確実にレベル4が取れる。ジャンプ以外でも評価される演技ができるようになっています。
ソチでは6種類すべての3回転ジャンプを跳ぶ意欲もみせていると報じられています。試合では回転不足と判定されることが多い3回転―3回転ですが、練習ではきれいに着氷できています。最大のライバルである韓国のキム・ヨナ選手(23)も3回転―3回転の質が非常に高いのですが、今季は右足甲の負傷で出遅れ、試合数が少ないこともあり、完成度が上がってきていない印象です。とはいえ、本番に強いヨナ選手のことですからソチでは必ず巻き返してくるでしょう。
ほかにはロシアのユリア・リプニツカヤ選手(15)が注目されています。でも私の印象では滑りがまだジュニアクラス。演技構成点が上がっていないことなどをみても、そこまで脅威には感じません。むしろイタリアのカロリーナ・コストナー選手(27)がノーミスだと、怖い。フェンスにぶつかりそうなほどスピードに乗ったスケーティングには目を見張るものがあるし、「ハマった」ときの勢いはピカイチだと思います。
浅田選手がライバルたちに勝つポイントは、逆説的にはなりますが、フリーの演技開始から約30秒後のトリプルアクセルを決められるかどうか。これが決まれば精神的な余裕も出て、後半で取りこぼすリスクが格段に減ります。
オリンピックには「魔物」がいるといわれますが、いまの浅田選手なら、その「魔物」でさえ味方につけられるはずです。
※週刊朝日 2014年2月21日号