世田谷パブリックシアターの芸術監督を務めるなど、いまや狂言界にとどまらず、舞台芸術界全体を担う旗手として大活躍する野村萬斎氏。作家・林真理子との対談で、一昨年、主演しヒットした映画『のぼうの城』の裏話を明かした。

林:地方の人にも萬斎さんはよく知られているから喜ばれるでしょう。

野村:そうですね。おかげさまで全国ネットのテレビに出させていただいて……。でも、大河も朝ドラも90年代ですから、もう20年近く長尺な作品には出ていないんですよ。大河のお話はしょっちゅういただくんですけど、なかなかご縁がないですね。

林:どうしてですか。

野村:主役の話が来て、はたして1年間それに費やせるかといったら、狂言をし、かつここの芸術監督をやっていると、2、3年先まで予定が決まっているので、なかなかお受けできないという。

林:ああ、そうか。テレビってオファーが遅いんですね。

野村:映画「のぼうの城」も、かなり前から決まっていて、お金が集まらなくて話が頓挫して、そのあと小説にして本を出したら売れたので、また映画化の話が復活して、それで撮ったんです。

林:えっ、あれは原作があってそれを映画化したんじゃないんですか。

野村:和田竜さんという方のシナリオが先にあったんです。でも、それが一度ダメになって、そのあと和田さんが小説にしたんです。

林:そんな裏話があったとは知りませんでした。

野村:そして和田さんが小説にするときに、主人公の「木偶(でく)の坊」を、ものすごく大きくてのっそりした男に変えたんです。

林:そうそう、小説だとそうです。

野村:小説から入った人は、「なんで野村萬斎みたいな小男がやるの?」と思ったでしょうけど、実は僕のほうが先に決まっていたんですね。また水攻めのシーンは、震災のことで控えようという時期もあったので、公開が1年延びて、だから最初の話が来てから公開されるまで、8年ぐらいかかったんです。

林:監督(犬童一心、樋口真嗣)が「野村萬斎以外考えられない」ってずっと待っていたんでしょう? 白塗りで田楽を踊るクライマックスのシーンはほかの人には絶対にできないし、茫洋としたあの主人公の感じって、確かに萬斎さん以外は難しいですよね。心から茫洋としているというのは(笑)。うまく言えないけど。

野村:浮いている人というイメージで、僕は床から2、3センチ浮き上がっているように見えるんだそうです(笑)。

林:確かにあの主役は、萬斎さん以外の人は考えられないですよ。

野村:自分がつくる芝居も、自分が出る映画も、「見たことない演技」とか「余人には代えがたし」と言われると、それはいいなと思いつつ、それだけ自分は特殊なんだなという気もしちゃいますよね(笑)。

週刊朝日 2014年2月7日号