1月21日の東京地裁104号法廷は、異様な雰囲気に包まれた。

 傍聴席と証言台の間に高さ約2メートルのついたてと防弾板が設置され、多くの刑務官が法廷内に目を光らせる厳戒態勢。オウム真理教元幹部の平田信被告(48)の第4回公判が始まった。

 証言台に立ったのは、中川智正死刑囚(51)。元医師で教団では「法皇内庁長官」として、坂本弁護士一家殺害事件などにかかわった大物幹部の一人だ。

 平田被告が逮捕監禁罪に問われている東京・目黒公証役場の事務長、仮谷清志さん(当時68)拉致事件では、連れ込んだ車の中で仮谷さんに麻酔薬を注射。監禁先の教団施設では、仮谷さんが死亡する直前まで近くにいたという。

「仮谷さんは『助けて』と3回、言いました」
「遺灰を(本栖湖に)流したのは私です」

 教団の残虐性が、マイクを通して法廷に響き渡る。検察側の席に座っていた仮谷さんの長男実さん(53)は閉廷後、中川死刑囚についてこう語った。「非常に緊張していて、時折、汗をふいていました。真剣に正直に答えようとしていると思いました」。

 だが、傍聴席からは中川死刑囚の姿を見ることはできない。裁判所側は「死刑囚の心情を安定させるため」と説明するが、ジャーナリストの江川紹子さんは疑問を投げかける。

「死と向き合う気持ちが揺れるとしても、それは傍聴席が見えるからではないでしょう。本人たちは普通に話すつもりなのだから、遮蔽(しゃへい)には反対です。死刑囚も生きている人間。堂々と証言させるべきです」

 公安調査庁の調べでは、オウムから派生した「アレフ」と「ひかりの輪」の国内の信徒数は約1650人(2013年6月末現在)。増加傾向にあり、その多くが30代以下の若い信徒だという。フェイスブックなどのSNSを通じた勧誘が行われている。

 江川さんは「カルト集団の恐ろしさが、社会で引き継がれていない」と事件の風化を危惧(きぐ)する。

 公判は今後、2月3、4日に井上嘉浩、5日は林(現姓・小池)泰男と、死刑囚の証人尋問が続く。同様の厳戒態勢がとられる予定だが、教団の恐ろしさを改めて伝えるためにも、死刑囚の「いま」を公にする必要があるのではないか。

週刊朝日 2014年2月7日号