雨どいを溶接してつなげた胴体に、フォークの柄を付けたアルトサックス。オイル缶に古い木材をつなげ、弦を調節する部分(ペグ)は肉叩き棒とニョッキを作る調理道具のチェロ。お菓子の缶を二つつなげただけのそぼくなギター。
驚くなかれ、これらの楽器は、全てゴミから作られている。
南米パラグアイ。首都アスンシオン南部のカテウラ地区に、不法投棄からできた10ヘクタールほどのゴミ集積場がある。川沿いで湿気が多いこの地域には住所を持たない貧困層がバラック小屋に住み、多くはゴミ拾いで生計を立てている。辺りには異臭が立ち込め、水道も電気も通っていない。
あるのは絶望と暴力だけ――。
そんな場所のゴミから楽器が生まれたのは、大学で環境学を学んでいたファビオ・チャベス(38)が、2006年にカテウラを訪れたことに始まる。子どもたちにゴミの分別を教えるプロジェクトでやってきた。
「ですが、彼らには秩序や約束を守る概念がなく、プロジェクトは頓挫しました」(ファビオ)
あきらめかけていた頃、別の地域でファビオが率いていた子どもオーケストラのメンバーを連れてきた。すると、カテウラの子どもたちは「私たちもやりたい」と目を輝かせた。
しかし、ここでは楽器は高嶺の花。そんなとき、ゴミ集積場で働く“コーラ”ことニコラ・ゴメス(48)が「ゴミから楽器を作ろう」と言いだし、実際に1台のバイオリンを作った。子どもたちは喜んでゴミを集め、楽器作りを手伝い、練習を始めた。
ろくな音は出ないし、カテウラの子どもは労働力ゆえ、練習中も親に連れ帰される。それでも辛抱強く続けると、次第に楽器の音色が調(ととの)ってきた。そして、08年に「リサイクル・オーケストラ・オブ・カテウラ」が誕生した。
本物の楽器と比べ音量こそ小さいが、いつしか美しい音色を奏でられるようになった。次第に注目が集まり、今では世界中で演奏会を開く。昨年暮れに東京と大阪で催された公演では、「本物のオーケストラより感動した」と称賛された。子どもたちも160人に増えている。
「主に13~15歳ですが、同じ年代より責任感はずっと強く、約束を守るようになりました。フルートを担当する16歳のロシオは、日本に来る楽団全員のビザ手続きをしました。子どもは、任せ、信頼すると、それに応えようと努力します」(ファビオ)
アスンシオン市は子どもたちに名誉市民賞を贈った。授賞式は立派な市庁舎で開かれるはずだったが、ファビオは「カテウラに来て」と願い出た。市長や議員らに、ゴミ集積場の現状を見てほしいからだ。
今でも問題は山積している。
貧困は解消されず、来日メンバーの家族の半数は、ゴミの収集で生計を立てる。にわかに注目された見返りを期待して、親たちは争う。
それでもファビオは決してあきらめない。
「捨てられ、忘れられた人や物が今、世界のステージに立っているのだから」
ゴミが奏でる音楽の奇跡は今日も続く。
※週刊朝日 2014年1月31日号