「さとり世代」と呼ばれる、堅実で高望みをしない現代の若い世代。さとり世代の現役受験生たちは一流大学を敬遠する傾向があり、東大や早稲田が入りやすくなりそうだ。

 2008年のリーマンショック以降、受験生は[1]理系を志望する[2]自宅近くの大学に進学する、ことが増えた。不景気が原因で、[1]は就職が有利とされ、[2]は一人暮らしをさせる経済的な余裕がないためだ。

 これに加え、昨年までは学費の安い国公立大学が人気だったが、今年は私立大学の人気が回復している。原因は好景気ではなく、「安全志向で努力はきらう」というさとり世代の特徴のようだ。勉強量の多い5教科型入試ではなく、3教科型を選択するというのだ。

「高3の長女は当初、関西の大学に挑戦したいと言っていたのですが、確実に合格する大学に進みたいと考え直したようです。親としても子供の一人暮らしは負担が大きく、夫や娘と話しあい、地元の私大を受験することに決めました」(香川県在住の50代主婦)

 埼玉県在住の40代主婦は、わが子の“合格最優先”に戸惑い気味だ。

「高3の長男が夏ごろ、『浪人したくない。現役で入れるなら、どこでもいい』と言うので驚きました。夫に伝えると『うーん』と唸(うな)っていました」

 こうした傾向は、大学の難易度にも影響を与えそうだ。河合塾の模試では、東京大学の志望者が前年比94%、文系は88%まで減少した。特に「あと一息」で合格ラインに達する学生層の志望減少が目立つという。ほかの国立大では、大阪大、名古屋大、神戸大、東京工大、一橋大などの志望者が減少している。

 一方で志望者が増えている国立大は、東北大や九州大。受験生が地元志向を強めた影響だろう。

 人気が回復した私立大学でも、早稲田大の志望者は前年比93%と目立って減っている。東大と同じく難関大学の忌避に加え、中部以西の志望者が少ないという現象がある。ここでも地元志向の影響が出ている。

 また、就職に有利な実学系、医、薬、看護系など、資格を取得できる大学・学部の志望者も増えている。

 こうした安全志向の受験生を「健全だ」と評価する声もある。エジプト考古学者で早大名誉教授の吉村作治氏はこう話す。

「夢は夢でしかないという冷静な判断力を感じますし、地元の大学を選び、地域の企業や自治体に就職するという選択は地方分権の理念にもマッチしていると思いますね」

 吉村氏自身は東大を目指して3浪までしているが、さとり世代の受験傾向は吉村氏とは真逆だ。模試でA判定となった大学へ“効率的”に進学し、堅実に「正社員」を目指す。ただし、吉村氏は「就職だけを目指すなら優れた専門学校もある」と釘をさす。

「やはり大学は学問をする場所。頭を徹底的に鍛えることで、企業が必要とするプロフェッショナルに育っていく。大学名だけの学歴などに意味はありませんが、大学生は知というライセンスは獲得しなければならないと思います」(吉村氏)

週刊朝日 2014年1月31日号