富山第一の大塚一朗監督(右)と次男で主将の翔 (c)朝日新聞社 @@写禁
富山第一の大塚一朗監督(右)と次男で主将の翔 (c)朝日新聞社 @@写禁
星稜の河崎護監督 (c)朝日新聞社 @@写禁
星稜の河崎護監督 (c)朝日新聞社 @@写禁

 1月13日。第92回全国高校サッカー選手権の決勝は、初の北陸勢決戦になった。富山第一―星稜(石川)。ひと昔前までは「サッカー不毛の地」と言われていた北陸地方の2校がなぜ、選手権の頂点を争うまでに成長したのか。

 そこには2人の名伯楽の存在があった。富山第一の長峰俊之部長と星稜の河崎護監督だ。

 長峰部長は富山第一を36年間も率いて、柳沢敦(J1仙台)という名選手を世に送り出した。河崎監督も今年が就任29年目で、本田圭佑(ACミラン)、豊田陽平(J1鳥栖)、鈴木大輔(J1柏)という日本代表選手を育てた。2人に共通するのは、北陸サッカーの強化に取り組んできた中心人物であり、しっかり意図を持って繋(つな)ぐサッカーを掲げ、コツコツと積み上げてきた点にある。

 本田はかつて、こう話した。「河崎先生は人間教育をしっかりしてくれるし、僕にノビノビやらせてくれた。星稜の3年間がベースになっている」。河崎流の指導は、人間性を磨き、ストロングポイントを徹底して伸ばす。いつしか本田を始めとする県外の選手も星稜の門をたたくようになり、選手の質が向上した。

 一方、富山第一は地元の選手を中心に攻撃的サッカーを掲げ、一昨年には長峰部長の教え子でもある大塚一朗監督にバトンタッチ。大塚監督はイングランドで指導者ライセンスを取得した、いわば「逆輸入」監督。長峰部長が築き上げた富山第一というブランドの上に、イングランド仕込みの綿密なサッカー論を植え付けたことで、チーム力は格段にアップした。

 決勝。星稜は組織的な守備をベースに、エース寺村介(かい)を中心に仕掛ける。これがハマり、2点を先行した。しかし、最後まで自分たちの繋ぐサッカーを信じ抜いた富山第一のスタイルが奇跡を起こし、後半残り3分から追いついた。

 大塚監督が「相手の弱点を見抜いて、そこに正確なキックができないといけない。たとえば、相手のプレッシャーが来ている状態でサイドバックが同サイドにボールを正確に蹴る練習をしてきた」と語ったイメージどおり。終了間際の2得点は、左サイドバックの竹澤昂樹のチャンスメークから生まれたものだ。

 星稜も富山第一の押せ押せムードになった延長戦で混乱することなく、ペースを奪い返したことは称賛に値する。だが、最後は相手の勢いに押し切られた。

 両チームが長らくこだわりを持って歴史を積み上げてきたからこそ、実現した死闘。どちらも主役としてふさわしい戦いだった。北陸のサッカーを変えた2人と、「逆輸入」のリーダーの思いが、改修前最後の「聖地」国立競技場で花開いた瞬間だった。

週刊朝日 2014年1月31日号