高齢化社会となった日本だが、今後、高齢者のイメージは変わっていきそうだ。ベビーブームに生まれ、様々なイノベーションを起こしてきた団塊の世代の高齢者たちは、これまでとはかなり違った価値観を持っているためだ。現在の高齢者の動向を調査している、博報堂「新しい大人文化研究所」所長の阪本節郎氏はこう言う。

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 今、「高齢者」の概念が大きく変わりつつあります。これまでのように、「黄昏(たそがれ)中高年」による「枯れていく老後」のようなマイナスイメージではなく、「若々しくセンスある大人」による「人生最高のとき」への転換です。

 大きなきっかけは、2007年前後に始まった「団塊の世代」の退職です。すでに、成人人口の過半数を50代以上が占めるようになるなど、日本は若者中心の国ではなくなっていましたが、団塊の世代が60代を迎えたことで、新しい高齢者像が姿を現したのです。

 ベビーブームのときに生まれた約800万人は、ビートルズに代表されるグループサウンズでつながっています。同じものを「いいな」と思える体験を共有していて、集団としてのパワーで、ファッション、働き方、恋愛の仕方も家族の形も常にイノベーションを起こしてきたのが団塊の世代です。

 食生活も同様です。電子レンジ、冷凍食品、インスタント・レトルト食品の利用を、生活に初めて取り入れました。日本食に加えて、洋食の良さも知っているから、グルメでありつつ、簡便性を掛け合わせた食事を好んできました。それを60代になったから、70代になったからといって、急に粗食にすることはしないでしょう。食事を楽しむことの素晴らしさを知っているわけですから。

 男性が料理をするようになったのも団塊の世代からではないでしょうか。定年後の趣味として楽しむ人も多く、家庭内の様子も、ひと昔前とは大きく変わっています。リタイアしてから努力を重ね、よりイキイキと輝きたいという意欲が旺盛なのです。

 私は、40代以上の世代を「中高年」「高齢者」という概念ではなく、「新しい大人」として調査、研究を進めています。

 40代~60代では「年齢にしばられない生き方をしたい」人が74.5%。言われてうれしい言葉は「若々しい」(47%)、「センスがいい」(38.3%)が上位で、従来の中高年に対する褒め言葉である「成熟した」(10.1%)を大きく上回っています。

 この傾向は今後どんどん強まっていくでしょう。食卓の風景はもちろん、生活すべてがこれまでの高齢者のイメージでは語れなくなっている。全く新しい「大人文化」による、元気な高齢化時代が到来しています。

週刊朝日 2014年1月24日号