「日本の『経済活力の低下』が目に余る」と嘆く“伝説のトレーダー”藤巻健史氏。これに労働意欲の低下が重なれば、「まさしく先進国病の症状である」と、日本社会に警告を告げる。

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 1980年代には、「先進国病の原因は過度の社会福祉である」との激しい批判が起き、その結果、福祉の民営化や見直しが起こった。米国のレーガン革命や、英国のサッチャーの改革がそうである。30年たったいま、歴史が繰り返されそうに思えてならない。日本では格差是正が悪平等の域に達しつつあると思うからだ。

 来年度の政府予算案では、厚生労働省は過去最大の30兆7430億円だ。年金、医療、介護といった社会保障関係費は30.5兆円にのぼる。社会保障関係費とは財政学上は所得の再配分である。

 国債の償還や利払いに充てる国債費は23.2兆円である。国債費は過去の支出であるが、そのほぼ40%は社会保障関係費に充てられているから、23.2兆円の40%すなわち9兆円分も社会保障関係費と考えてよい。となると、ここまでで30.5兆円+9兆円で39.5兆円が社会保障関係費に充てられていることになる。

 さらには地方交付税の16.1兆円は、地方支出でウエートが高い民生費(地方の社会保障関係費)を支えている。来年度予算案の「税収+その他収入」は54兆円だから、税金その他で集めたお金はおおかた社会保障関係費に消えてしまう計算になる。集めたお金をほぼ全額、国民に再配分しているのである。政府の最大の仕事とは富の再配分なのか? 政府の最大の仕事とは「国民の生命と財産を守る」ことではないのか?

週刊朝日 2014年1月24日号

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藤巻健史

藤巻健史

藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中

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