40代を過ぎると、手元の文字が見えにくくなるなどの症状が起こり始める老眼。誰にでも起こる眼の老化現象で、QOL(生活の質)に影響を与える。加齢により衰えた水晶体に代わって、近くも遠くも見られるレンズの開発が進んでいる。

 福島県在住の内科医、関口聡子さん(仮名・52歳)は、近視のため中学1年生からソフトコンタクトレンズを愛用してきた。だが40代半ばから手元の文字がぼやけ始め、老眼を実感した。

 人間の眼には、水晶体と呼ばれるカメラのレンズのような部分があり、遠くを見るときには薄く、近くを見るときは厚くなる。この焦点を調節する機能が失われるのが老眼だ。加齢とともに水晶体が硬くなり、十分な厚さにできなくなることが原因といわれている。

 関口さんはコンタクトレンズの度数を弱めることで対応したが、手元は見えても遠くが見えにくく、車の運転時はコンタクトの上からめがねをかけていた。わずらわしさを感じていたころ、知人から、「遠近両用のコンタクトレンズを上手に処方してもらえる」と、しおや眼科を紹介された。

 院長の塩谷浩医師が選んだレンズを試したところ、関口さんは視界が一気に開けた感動を味わった。

「1枚のレンズで近くも遠くもクッキリ見えるのが本当に不思議でした」

 その理由を塩谷医師は、遠近両用めがねとの違いを使って説明する。めがねの場合、レンズの上部が遠用(遠くを見るための度数)、下部が近用(手元を見るための度数)に分かれているので、遠近どちらかを見るかにより視線を移動させる必要がある。だが、遠近両用コンタクトは、1枚のレンズの中に近用と遠用がドーナツ状に配置され、眼は常にその両方を網膜に映している。遠用にピントを合わせると、近用部分で見ている画像はボケているはずなのに、気づく人はほとんどいない。

「窓の網戸を通して外を見るとき、私たちは網目を意識しません。逆に、網目に注目するとき風景を見ていません。脳には『見たいものだけを選んで見る』性質があるのです」(塩谷医師)

 関口さんのように満足度の高い人が多い半面、日本国内での遠近両用コンタクトレンズの使用率は、海外に比べて非常に低い。背景には、特性を理解し、正しく処方できる眼科医の少なさがあると塩谷医師。

「遠近両用コンタクトは両方の眼で見るためのものだということを理解していない医師もいます。装着して視力を測った場合、たとえ右0.8、左0.8程度しかなくても、両眼で見ると1.2になりうる。脳が見るのはあくまで両眼で見た世界。片側の視力検査の数値で判断しないでほしい」

週刊朝日 2014年1月17日号