「打出て 三上の山を ながむれば 雪こそなけれ ふじのあけぼの」

 琵琶湖南岸に位置し、なだらかな稜線を描く三上山について、かの紫式部はこう詠んだ。標高は400メートル強。高さはなくとも秀麗なその山容に、地元の人は“近江富士”と愛でてきた。

 地域で親しまれるふるさとの富士は、小笠原諸島やトカラ列島など離島を含めて全国に点在し、約400座を数える。

 本家富士山を慕い崇めながら地元の山を“富士”に見立てる文化は、江戸時代に広まった。参勤交代やお伊勢参り、富士講などで実際に富士山を目にした多くの人たちが、地元にある山を富士のその姿に重ねたからだ。

 また、関東方面では、本家富士山を御神体とする浅間大社を地元に勧請し“富士山”とした信仰の山が数多くある。目印や観天望気なども含めて、見立てを好む日本人ならではの“遊び心”と信仰が生んだ富士なのだ。

週刊朝日 2014年1月3・10日号