民家の庭に“放射能ガラクタ”を埋めるという前代未聞の不法投棄事件が本誌スクープで発覚し、被災地は大揺れだ。だが、闇はまだまだ深い。告発した作業員が、除染で出た“汚染水”を田畑に垂れ流したことも明かしたのである。ジャーナリストの今西憲之氏と本誌取材班による調査で、その背景には「お目付け役」と癒着した、除染現場の腐敗があったことがわかった。

 内部告発を寄せた除染作業員の吉田慎三さん(仮名=40代)と、一緒に作業したBさんの2人が本誌に対し、さらなる「デタラメ除染」を告白した。

 それは今夏、福島県田村市東部にある牛小屋を除染しているときに起こったという。牛小屋は家の庭に汚染ガラクタを埋められた被害者、池本正博さん(仮名)宅のすぐ近くだ。

 その日は屋根などについた放射性物質を洗い流すため、水を使った高圧洗浄を実施していた。洗浄に使った水は汚染されているため、通常はビニールシートで作られた堰(せき)にためて作業後、回収する、と除染のガイドラインで定められている。

 ところがその日は、信じられない指示が現場責任者Aから飛んできたという。

「Aの指示で、ポリタンクに回収した洗浄水をそのまま垂れ流しました。水は周囲の田畑にまで流れていった。田んぼには稲が植えられて穂になっていたので、『いいのか、大丈夫か』と、不安になりました」

 その後も、「垂れ流し」は何度も行われたという。

 高圧洗浄すると、多いときで堰に100リットル以上の汚染水がたまる。すべてを処分場へ運び出すためには300リットル程度の大型ポリタンクが必要となる。

 だが、いつも現場で用意されていたポリタンクは18リットル用で5個ほど。まったく計算が合わないのだ。そのカラクリを、吉田さんが絵に描いて教えてくれた。

 普通、堰にためられた汚染水は、ポンプを使ってポリタンクに移され、運搬される。この工程を汚染水を垂れ流さなかった“証明”として除染業者が写真撮影。市へ提出することになっているが、実はポンプの電源を入れず、“ヤラセ”で撮影していた。

 さらに証明として写真だけでなく、除染で出た汚染水も必要になるという。

「タンクに移した汚染水に凝集沈降剤を入れ、沈殿物を取り除きます。それをフレコン(袋状の包材)に入れ、残った水の線量を測定し、基準値以下であれば、流し捨てることができます」(田村市原子力災害対策課)

 吉田さんらによると、問題の現場では、単なる水道水をポリタンクに入れ、土などで汚れをつけて“偽装”した汚染水を提出していたというから悪質だ。

「ガイドラインを守ると手間がかかるので、現場責任者のAがデタラメを指示していました。チェックは適当なので、やりたい放題でした」(吉田さん)

 こうした行為はいつも、チェックの日を巧妙にかいくぐって行われたという。吉田さんと一緒に作業したBさんが振り返る。

「牛舎の洗浄水を垂れ流したときは、責任者に『監理員はまだ来ないから、今のうちだ』と言われました」

 ここで出てくる「監理員」とは、除染作業の手順設定、見回り、放射線量の計測などの役目を担う人たちのことで、いわば除染の「お目付け役」だ。

 除染の元請けとなっている田村市復興事業組合と市の職員が見回りを担当し、現場の作業員たちは慣例で彼らを「監理員」と呼んでいたという。

週刊朝日 2013年12月20日号

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今西憲之

今西憲之

大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

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