特定秘密保護法案は報道関係者だけでなく、特定秘密を知ろうとした市民も捜査・処罰の対象となる。秘密情報漏えいの共謀や教唆(そそのかし)や扇動(呼びかけ)の場合は、実際の漏えいがなくても懲役刑になるという。戦時下で国民が犠牲になった「治安維持法」の再来とされるゆえんだ。ジャーナリストの横田一氏が取材した。

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 昨年12月、東日本大震災のガレキの試験焼却に反対する街宣活動を理由に逮捕され、家宅捜索も受けた阪南大学経済学部の下地真樹准教授は、こう話す。

「特定秘密保護法案が成立すると、私のような不当逮捕はさらに増えると思います。法案成立前の今でさえ、公安警察はデッチ上げに等しい逮捕を繰り返しているからです」

 下地氏ら市民有志による震災ガレキ広域処理反対に関連する逮捕は他に2件あった。昨年10月5日には、関西電力本店前で原発再稼働に反対する抗議デモに参加した男性が、大阪府警に公務執行妨害罪、傷害罪の容疑で逮捕された。抗議デモでは再稼働反対に加え、ガレキの広域処理反対を訴える人も加わっていた。また同年11月13日にも大阪府市が此花区で開催したガレキ処理の説明会でも逮捕者が出た。

 抗議行動中、警官の手を振り払ったという公務執行妨害などの容疑で4人が逮捕された。

 下地氏は12月9日に逮捕されたが、抗議行動をしたのは10月17日。2カ月近く経った極めて不自然な逮捕だったという。

「大阪駅構内で無許可のデモをしたという容疑でしたが、実際にはそんな事実はなかった。一緒に逮捕されて一人だけ起訴された人は、駅員への抗議が威力業務妨害に当たるとされた。私は抗議活動をしていなかったにもかかわらず、『黙示の共謀』が認められると逮捕されたのです」(下地氏)

 大阪駅での抗議行動のリーダーが下地氏で、駅員に抗議をして威力業務妨害で逮捕された参加者との間に「黙示の共謀」があったというが、「抗議をしろ」といった目くばせをしたわけでもないという。

 この程度の運動で家宅捜索まで受け、パソコンやビデオなどを押収された上、拘置所に勾留された下地氏だが、結局は起訴されなかった。その後、「共謀」について徹底的に調べた。

 すると、裁判所の共謀の認定は非常に緩く、警察や検察をチェックするどころか、彼らを補完するだけの存在と化していると実感したという。

 経験上、下地氏は特定秘密保護法案の危険性についてこう警告を発する。

「政府は『秘密保護法制は世界各国にある』と説明していますが、日本ほど刑事手続きがデタラメな国は先進国ではありません。勾留期間はフランスが6日間に対し、日本は20日間。しかも取り調べは弁護士の立ち会いもなく、可視化もされていません。こんな状態で秘密保護法案が成立したら、政府に批判的な市民への弾圧がまかり通る恐れは十分にあります」

 成立すると、公安警察が日常的に情報収集をすることが、特定秘密保護法案によって合法化されてしまう。その結果、今まではひそかに行われていた身元調査が、堂々と行われかねないのだ。

「今回の法案の中には、公務員や特定秘密を扱う機関への出入り業者に対する『適性評価』 があります。例えば、政府が逮捕したいA氏がいたとします。A氏は公務員でも出入り業者でもないが、彼らと交友関係がある人物としてA氏を調べることができる。また『特定秘密に近い情報の公開請求をし、入手しようとしている』という理由で、情報公開請求をした市民が捜査対象になる危険性もあります」(下地氏)

 国策について異論を唱える市民が、「特定秘密保護法案」の処罰対象となりうる時代はすぐ目の前に迫っているのだ。

週刊朝日  2013年12月13日号