悪質な交通事故の刑罰を強化するため、危険運転致死傷罪に準じる新たな罰則を盛り込んだ新法が11月20日、参議院で可決され、成立した。交通事故被害者遺族の長年の望みだった厳罰化。ノンフィクション作家の柳原三佳氏が取材をした。

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 2011年10月、名古屋市内で発生した飲酒ひき逃げ事件。飲酒運転の車は追突事故を起こして一方通行を逆走して逃走、途中で大学生の眞野貴仁さん(当時19)をはねて死亡させ、さらに逃げた。運転していたブラジル人の男は無免許だったが、名古屋地検はこの男を危険運転致死罪(最高懲役20年)ではなく、自動車運転過失致死罪と道路交通法違反(飲酒運転、ひき逃げ)で起訴。担当検事は、遺族にこう説明した。

「無免許でも長い間乗っていれば技術がある。片足で立てれば飲酒運転でない」

 刑事裁判では、懲役7年の刑が確定した。

 交通事故遺族の声を受けて01年12月に新設された危険運転致死傷罪だが、実際にはかなり悪質な事故でもこの罪が適用されないケースが相次いだ。加害者の故意性を立証する必要があるなど、適用条件が極めて厳しかったためだ。

 また、ひき逃げの罪は軽いまま(当時は最高懲役5年)だったため、飲酒事故後に逃走し、アルコールが抜けてから出頭して罪を軽くする「逃げ得」や、逃走後にさらに飲酒し、事故時のアルコール濃度の立証を難しくさせる「重ね飲み」といった問題があった。実際、危険致死傷罪の新設後、数年はひき逃げ事件が増えた。

 複数の被害者団体からの法改正を求める声を受け、今回の新法では、ひき逃げや薬物摂取の影響などでの悪質な運転が厳罰化される。

 主な内容は次のとおりだ。

・酒や薬物などを摂取して人身事故を起こした後、逃走して隠そうとした場合、懲役の上限を12年に
・酒や薬物、特定の病気によって正常な運転に支障が生じる恐れがある状態で死亡事故を起こした場合、懲役上限を15年に(対象となる病気は政令で定める)
・危険な速度で道路を逆走したり通行禁止道路を走行したりして人身事故を起こした場合、危険運転致死傷罪の対象に
・無免許で事故を起こした場合、刑罰をより重くする

 厳罰化が事故の抑止につながることを期待したい。

週刊朝日 2013年12月6日号