会見で徳洲会マネーについて釈明する猪瀬知事(11月22日) (c)朝日新聞社 @@写禁
会見で徳洲会マネーについて釈明する猪瀬知事(11月22日) (c)朝日新聞社 @@写禁

 医療法人「徳洲会」グループをめぐる公職選挙法違反容疑事件が、思わぬ方向に展開を始めた。東京都の猪瀬直樹知事(67)が、昨年12月の知事選直前に同グループの徳田虎雄前理事長(75)に面会後、次男の毅衆院議員(42)から現金5千万円を受け取っていたことが明らかになったのだ。猪瀬知事は「選挙資金ではない」と主張するが、東京地検特捜部は多額の現金の動きに注目している。

 関係者の話を総合すると、猪瀬知事が現金を受け取った経緯は、こうだ。

 石原慎太郎都知事(当時)が後継者に猪瀬副知事(同)を指名してから約10日後の昨年11月6日。猪瀬知事は、20年来の知人で新右翼団体「一水会」の木村三浩代表(57)に連れられて、徳田氏の入院する神奈川県の湘南鎌倉総合病院を訪ねた。

 木村氏はこう説明する。

「石原氏を支援していた徳田さんに早めに挨拶をしておくべきだという大勢の意見があり、私が紹介することになった」

 猪瀬知事と徳田氏は初対面。猪瀬知事が副知事時代のことなどを話した後、「都知事選に出ます」と言うと、徳田氏は難病のため話すことができないが、文字盤上の字を目で追い「応援しますよ」と答えたという。「お金の話は一切なかった」(木村氏)。動かない徳田氏の手を猪瀬知事が握り、約40分間の面接は終了した。

 それから数日後、猪瀬知事は自ら衆院議員会館に出向き、毅衆院議員から現金5千万円を無担保・無利子で直接受け取った。出納責任者である秘書には知らせず、現金は妻名義の貸金庫に保管したという。その後、初当選を果たした猪瀬知事が都選挙管理委員会に提出した選挙運動費用収支報告書に、そのカネは一切、記載されていない。

 徳田氏との面会から、現金を受け取るまでの間に何があったのか。

 収支報告書に記載しなかった理由は、「選挙に使うつもりは全くなく、あくまで個人の借り入れで私と妻しか知らなかった。1月には返すつもりだった」と言い、議員会館で借用書を作成したと釈明。一方、「選挙にどのくらいお金がかかるのかわからなかった。個人の預金として持っていれば安心するということがあった」とも言い、選挙資金になり得た可能性を口にした。

 猪瀬知事が現金を返却したのは、地検特捜部が徳洲会に強制捜査に入った9月17日以降だ。秘書が徳田氏の妻に紙袋に入れた5千万円を返却。妻への任意の事情聴取で猪瀬知事への現金の流れが判明したという。

 公選法は、選挙運動に関するすべての寄付や収入を収支報告書に記載しなければならないと定めている。

 猪瀬知事は選挙と無関係だと言うが、捜査関係者は「カネに色はついていない。選挙に使っていれば罰則対象だ」と立件の可能性を示唆する。立件されなくても、5千万円ものカネを無担保・無利子で借りられたのは選挙に出るからのはずで、道義的責任は消えない。産経新聞などは、猪瀬知事が1億円を要求していたとも報道した。事実ならこれまでの説明と大きく食い違う。

 会見では、最後まで自身の進退に触れることはなかった猪瀬知事。五輪に向けた準備が進む都庁では「都政の消沈は避けられない。かといって、辞職して、また知事選をやっている場合でもない」(都庁クラブ記者)との嘆きが漏れる。

週刊朝日 2013年12月6日号