全国のオンブズマンがつくった「情報公開市民センター」前理事長の高橋利明弁護士は、安倍政権が今国会で成立を目指す特定秘密保護法案について危惧している。高橋氏は2001年に外務省機密費の開示請求をしたところ、ワイン購入の文書も非公開だったため、公開を求めて東京地裁に提訴した、いわゆる「ワイン銘柄非開示訴訟(外務省機密費問題)」に関わった経験がある。

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 このワイン裁判は、情報公開法が施行された2001年4月に外務省の報償費(外交機密費)の開示請求をしたのが発端で、「何でもかんでも秘密」というのが外務省の大前提であることを実感しました。いま私は八ツ場ダム訴訟に取り組んでいますが、ダム行政を担当する国交省も同じで、霞が関全体が隠蔽体質なのです。外務官僚は屁理屈を次々とつくってきました。ワインの銘柄を非公開にするのは、「出された人が何番目のランクのお酒を出されているのかがわかってしまい、日本に対して不満を抱き、信頼関係を失う恐れがある」というのが理由でした。

 ここにほぼ黒塗りになった1万8千円の飲食費に関する外務省の文書がありますが、「秘   無期限」と書いてあります。この程度でさえ、外務省は秘密にするのだから、特定秘密保護法案にある「防衛」や「外交」などの情報が秘密指定され、国民の監視対象外に置かれることは目に見えています。権力の腐敗と税金の無駄遣いを招く恐れがあります。外交機密費や官僚接待などの情報公開訴訟を通じて実感したのは、「秘密にすれば、腐敗する」「情報公開をすれば、無駄遣いは減る」ということです。秘密にできるお金は何にでも使える。それで、外務官僚は何百万円のワインを年度末に買っていた。元外交官は「自分たちで飲んでいた」「文書の7割ぐらいは秘密のハンコを押す」と教えてくれました。地方自治体でも「知事交際費」が議会対策として県議を接待するために使われていましたが、私たちが公開請求をしていくと、知事交際費が激減した県が出てきました。必要性の乏しい無駄遣いをやめたということでしょう。

 今回の法案では、特定秘密を大臣(行政機関の長)が指定しますが、「これで大丈夫」というのはマヤカシです。膨大な件数の情報を大臣が逐一チェックできるはずがなく、結局、官僚が決めることになります。特定秘密保護法案が成立すると、「テロ対策」などの理由で秘密の範囲が拡大し、情報公開を阻む壁がさらに高くなるのは確実です。そして特定秘密という高い壁に囲まれた官僚の無法地帯をつくることになりかねない。“官僚の無駄遣い助長法案”ともいえます。いまだに官僚の隠蔽体質がはびこる日本に必要なのは、新たな情報公開法制定(法改正)なのです。

週刊朝日  2013年11月29日号