ジャーナリストの田原総一朗氏は、原発の「即時ゼロ」を主張するの小泉純一郎元首相の意図をこう説明する。

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 小泉純一郎元首相の日本記者クラブでの記者会見の全容を聞いて、これは意図的な挑発だと感じた。

 小泉元首相がフィンランドの使用済み核燃料の最終処分場「オンカロ」を視察して、無害化するのに10万年もかかると知って「原発はダメだ」と言いだしたときは、小泉流の直感を素直に表明したのだととらえた。小泉元首相は「自民党をぶっ壊す」と言って総裁選に大勝した。郵政民営化では全野党が反対し、自民党内にも反対派が多かったのに衆院を解散し、自民党の議員たちも惨敗すると予想していたのに、なんと大勝してしまった。私は、小泉元首相は直感力の天才だと思っている。

 確かに、無害化するのに10万年もかかる最終処分場は誰が考えても大問題だ。だから小泉氏が「原発はダメだ」と言うのは理解できる。だが、それをさまざまな機会に繰り返し言い、会見ではっきりと安倍首相に「ただちに原発をやめよ」「原発ゼロを決断するのに、こんなに恵まれた状況はない」とまで言うのは、単なる進言ではなく、挑発である。

 当初は小泉元首相は民主党などの野党と同様に、20~30年は原発と共存してゼロに向かうのだと考えていたが、「即ゼロだ」と明快に言った。ちなみに「即ゼロ」を打ち出しているのは共産党だけである。

 さらに、原発を「即ゼロ」にして、代案はどうするのか、という問いに対して、「政治でいちばん大事なのは方針を示すこと。原発ゼロという方針を政治が出せば、専門家や官僚が必ず良い案を作ってくれる」とスパッと言う。このあたりが小泉流で、一般の政治家ならば専門家たちを集めて委員会などを作り、代案のめどがついたところで「脱原発」を打ち出すのだが、小泉元首相は政治家が代案など考えなくても良いと言う。小泉流は、無責任とも言えるし、カッコいいとも言える。

 たとえ原発を「即ゼロ」にしても、日本にはすでにおびただしい数の使用済み核燃料がある。ところが、この最終処分場をめぐり、小泉元首相は「原発必要論者と私の違うところは、彼らは『(処分場選定の)めどをつけるのが政治の責任だ』と言う。だが、めどをつけられると思うほうが楽観的で無責任だ。福島第一原発事故の前に見つけることのできなかったものを、事故後に見つけ出せるというのが必要論者の主張だ」と言い切った。

 確かに、日本初の原子力発電が行われた1963年以来、2011年の事故まで、使用済み核燃料の最終処分場の場所も処分の仕方もまったくめどがついていないのだ。だから、「これからめどをつけられるという必要論者こそ無責任ではないか」と糾弾しているのである。

 この糾弾は確かに正論だ。最終処分事業を担当する原子力発電環境整備機構(NUMO)が設立されたのは2000年で、それまでは最終処分場について考えることさえしなかったのだが、実はその後もNUMOは開店休業状態なのである。

 だが、それでは小泉元首相は最終処分をどうするつもりなのか。この問題については、一言も言及していない。ここがまた小泉流である。

 小泉発言に自民党の幹部たちは困惑しきって、聞こえないふりをしている。まともに反撃すれば、党内から「脱原発」の議員たちが現れて混乱に陥る危険性が高いからだ。となると、ますます小泉元首相の「挑発」の真意が知りたくなる。

週刊朝日 2013年11月29日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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