とりわけ高齢者に多く見られる、前立腺肥大症治療。さまざまな治療が増えている現在について、2011年4月に発行された診療ガイドラインの作成責任者を務めた東京大学病院泌尿器科・男性科の本間之夫医師に聞いた。

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 まず気をつけていただきたいのが、排尿に問題があるからといって、前立腺肥大症とは限らないということです。

 前立腺が肥大し、尿路が閉塞することによって症状がおこるのが、前立腺肥大症の典型ですが、それ以外の原因で排尿トラブルが起きていることもあります。また、高齢になると多くの方に前立腺の肥大が見られますが、症状が起こらない限り、前立腺肥大症の治療の必要はありません。

 前立腺肥大症と間違えやすい病気でもっとも怖いのが前立腺がんですが、ほかにも過活動膀胱などの膀胱の病気や感染症もあります。極端な場合では、「夜のトイレが近い」と病院に来た患者さんに話を聞いてみたら、健康のために水分をとりすぎているだけだったという例もありました。

 誤診を防ぐためには、国際前立腺症状スコア(IPSS)や前立腺がんを調べるPPA検査、さらには尿検査、排尿記録、尿流測定、残尿測定などさまざまな指標でしっかりと診断を受ける必要があります。

 前立腺肥大症と診断ができたら、まず検討するのが薬物治療です。薬物治療の第一選択となるのがα1遮断薬で、効果がかんばしくなければ他の治療を検討します。前立腺の肥大が進んでいる場合はデュタステリドなどの5α還元酵素阻害薬を使います。ただ、この薬はがんの指標となるPSA値に影響を及ぼすため、服用中は注意が必要です。

 また、手術については、内視鏡を使いモニターで確認しているので、昔に比べると医師の腕によって治療効果が大きく異なるということはなくなりました。

 現在よく行われているのがTURPとHOLEPですが、ほかにもさまざまな手術があります。どの手術がもっともよいかは、患者さん一人ひとりの状態や、前立腺肥大症のほかにどのような病気を抱えているか、また、医師の手術への習熟度によっても変わります。

 前立腺肥大症はすぐに命に関わるような病気ではないので、自分が納得するまで時間をかけて慎重に検討してから、治療法を選択するのがいいでしょう。

週刊朝日  2013年11月15日号