10月25日、安倍内閣は国の重要な情報を漏らした公務員らへの罰則を強化する特定秘密保護法案を閣議決定、国会に提出した。しかしこの法案に関心を寄せる国民は少ない。作家の室井佑月氏はその現状を見て、このように嘆いている。

*  *  *

 中学受験について、雑誌のコラムの依頼を受けた。でもあたしは、息子の学校選びがどうだとか、受験でこうなったとか、個人情報をあまり出したくない。

 息子のことはよく書いているんだけどさ。それは息子があたしの最大の関心事、生きてる支えなんだから仕様がない。しかし、親としてここまで書いて良いなどの線引きはあるんだと思う。

 う~ん、これではわかりづらい? たとえば、日本ハムの斎藤佑樹投手の親御さんが彼がまだ学生だったときに、息子の本を出した。こういう教育をし、こういう立派な子になった、という本だった。あたしは斎藤投手が可哀想であった。だって彼が、

「ああ、親マジでうぜぇ」

 といったらまわりのみんなは引くんじゃないか。ゲラゲラ笑って受け流されるようなところで。確実に生きていくハードルは高くなるよな。

 ま、そんなことはどうでもいい。その雑誌の編集者が「それでも」というので、あたしは「中学受験に夢中になってしまう家庭とは」という角度からコラムを書いた。そしたら、もっと息子とのエピソードを膨らませろという。「息子が家出した。取っ組み合いの喧嘩をした」という部分を広げろと。

 少しでも話題になったほうがいいからか? そうあたしが訊ねると、編集者は怒った。

「話題になってなどと考えてもいません。うちはそういう雑誌ではない」

 つまり、権威ある雑誌だから、話題になるとか考えてないっていいたいんだよ。すっげぇ。「少しでも話題に」といってくれたら、「だよね」って答えるのに。

 話は変わって、10月15日のNHKニュース、「政府が臨時国会で成立を目指している『特定秘密保護法案』の内容を『知っている』と答えた人は23%、『知らない』と答えた人は74%でした(NHK世論調査による)」。

 世の中のマスコミはなにをしてるんだ、と怒りを感じたのはあたしだけ? 政府は後から取ってつけたように国民の「知る権利」や「取材の自由」「報道の自由」に配慮するといい出した。

 ってことは、その三つが実はヤバいんじゃん。配慮してもらうんじゃない、その三つはマスコミが死守せねばならない領域でしょ。

 会社のお偉いさんが首相や大臣と飯を食いにいったりすることが、権威だとはき違えてない? 古くからつづいているから権威?

 読んでくれる人や観てくれる人を忘れたマスコミ媒体に、意味があるんだろうか。

 あたしが秘密保護法案についていちばんわかりやすく書いていると思ったのは、「女性自身」の10月29日号だった。法案についての危険性を訴えた藤原紀香さんのブログなどを取り上げ、見出しは、

「放射線量をママ友と調べただけで懲役!?」

 読んで! 知って!という気持ちが込められた記事だった。いいね。

週刊朝日 2013年11月8日号

著者プロフィールを見る
室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

室井佑月の記事一覧はこちら