作家の室井佑月氏はドラマ「半沢直樹」と日本の現実社会の違いを感じ、こう嘆く。

*  *  *

 遅ればせながらビデオに録っておいた話題のドラマ、「半沢直樹」を一気に観た。

 面白かった。人気が出たのもよくわかる。最終回、主人公の半沢営業第二部次長が、常務取締役の不正を銀行の取締役会で暴く。その台詞に考えさせられた。

 その朝、東京新聞の「原発事故賠償 備え不足」という記事を読んだばかりだったしね。

 福島第一原発事故で賠償や除染の事業費は、少なくとも5兆円かかることがわかった。でも、電力会社が備えているのは、一原発当たり上限1200億円の保険のみ。

 2011年8月、国会で原子力損害賠償法を「1年をめどに見直す」と決議したけど、期限を過ぎてもほとんど検討が進んでいない。なのに電力各社は再稼働申請をしている。住民は不安だ――という記事だ。

 今から「半沢直樹」の最終回の主人公の台詞を書くから、「銀行」を「国」、もしくは「電力会社」に置き換えて読んでみてよ。

「『銀行』は決して潰れてはならない。私たちはそのことに拘るあまり、いつの間にか自分たちのことしか考えない集団になっているんじゃありませんか。弱い者を切り捨て、自分たちの勝手な論理を平気で人に押し付ける。問題は先送りされ、誰一人責任を取ろうとしない。くだらない派閥意識でお互いに牽制し合い、部下は上司の顔色をうかがって正しいと思うことを口にしない。―中略―彼ら(普通の人々)を裏切りつづけるなら、私たちはもう存在していないも同然じゃないですか。これ以上、自分たちを誤魔化しつづけるのは止めましょう。黒は黒、白は白です」

 ちょっと長くなっちゃったが、あたしは日本の大きな組織の闇が、この台詞にすべて集約されている気がした。

 この国の官僚や政治家、大企業に勤める人々は、みんな「半沢直樹」を観るべきよ。ひょっとして反省できるかもしれないから。

 余談だが、小泉元首相が講演などで原発ゼロ発言を頻繁にしだしている。

「放射性廃棄物の最終処分のあてもなく、原発を進めるのは無責任」「原発ほどコストの高いものはない」

 安倍首相がやる気になれば出来る、とまでいった。

 10月6日付の北海道新聞によると、このことについて、「(自民)党内には小泉氏を尊敬する議員も多く、表立って批判しづらい。政府高官は『思うことがあっても言えない』とため息をつく」だそうだ。自分で考える頭がないんなら、税金で飯を食うのを止めていただきたい。馬鹿みたいなことでうだうだしている時間があるなら、ドラマ「半沢直樹」を観ていただきたい。

 そうそう、小泉さんの息子の内閣府兼復興政務官である進次郎さんは、「父は父だ。私は政府の一員だ」といっていた。

 リアル半沢直樹が見れるかもと思ったのに。ビジュアル的にも適任なのに。ああ、残念。

週刊朝日  2013年11月1日号

著者プロフィールを見る
室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

室井佑月の記事一覧はこちら