絵本やアニメで人気の「アンパンマン」の作者やなせたかしさんが10月13日に心不全で亡くなった。10年近くもがんと闘いながら、生涯現役を貫いた94歳の大往生だった。

「俺、もうじき死ぬよ」が、ここ数年のあいさつ代わり。初対面の人だろうがおかまいなしに、やなせさんは明るく言ってのけたというから、相手はさぞびっくりしたことだろう。

「アンパンマン」の発行元、フレーベル館のアンパンマン室室長・天野誠さんが振り返る。

「満身創痍なのに、病を語るときもどこか楽しんでいるような人でした」

 35年以上やなせさんの仕事を見つめてきた天野さんによると、独特のブラックジョークも、人を楽しませたいサービス精神の表れ。

「『死ぬぞ死ぬぞ』なんて言いながら、次々やりたいことは尽きない。ハンカチやバンダナのデザインが浮かぶと、すぐにサンプルを作るように頼まれました」

 できあがったハンカチやバンダナは、「これを売って復興の助けに」と東日本大震災の被災地に贈られた。がんに侵され、手術も十数回受けて、一時は引退を考えたやなせさんだが、2011年の東日本大震災の後、「死ぬまで現役でいる」と引退を撤回した。被災地の子どもたちがラジオから流れる「アンパンマンのマーチ」を歌っていたことに逆に勇気づけられたそうだ。

 しかし、本当は視力が衰え、作品を作るのは困難な状態だった。毎週行われる「アンパンマン」のアニメの試写会も、もう自分の目では見られなくなっていた。

「目はつらいなあ」と、さすがのやなせさんもこぼしていたというが、それでも絵筆は持ち続けた。

「なんで見えないのに描けるんですか」と天野さんが尋ねると、ある程度は勘で描いてるんだよ」と答えたという。11月に発売される最新刊『アンパンマンとリンゴぼうや』もそうして描かれた作品だ。

週刊朝日 2013年11月1日号