さまざまな原因で脳の細胞が死んでしまったり働きが鈍ったりして日常生活に支障をきたす認知症。そのうち、血管性認知症は脳卒中などの脳血管障害によって起きるものを指す。認知症の治療と「認知症の人と家族の会」にかかわってきた、洛和会京都新薬開発支援センター所長で神経内科医の中村重信医師に、血管性認知症の現状と今後の方向性を聞いた。

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 血管性認知症は脳血管の病気によって引き起こされる認知症です。しかし脳血管の病気にも種類があり、障害の部位や程度もさまざま。アルツハイマー病との合併もあるなど病態が見えにくく、治療を難しくしています。

 血管性認知症の治療は、血管性の病気の「予紡」、血管性認知症発症後の「進行防止」と「症状改善」の三つに分類されます。

 予防については、生活習慣病の概念が広まり、高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満などの危険因子の排除などが浸透しています。今年の6月、人口に対する認知症患者の割合が20年前に比べて減ったという英国の論文が発表されました。これは全認知症が対象ですが、私は血管性疾患の予防の成果だと思っています。

 進行防止とは、さらなる血管性疾患の予防です。抗血小板薬などの薬物療法のほか、血圧管理や食事・運動などの生活指導をきめ細かく行います。とくに、85歳以上では引きこもりやうつへの対策を重視すべきです。

 症状改善は、認知症状には薬物、心理的サポート、運動障害にはリハビリなどのアプローチがあります。薬物は、攻撃性などの陽性症状にはてんかん薬であるカルパマゼピンやパルプロ酸や、抑肝散(よくかんさん)などの漢方薬を、意欲低下などの陰性症状にはニセルゴリンなどの脳循環代謝改善薬やパーキンソン病に使われるアマンタジンを、認知機能の低下にはアルツハイマー病治療薬をというように、使い分けていますが、決めてとなる薬はありません。

 すでに予防がある程度効果が出てきたこと、症状改善が対症療法であることから、進行防止に力を入れているのが今の流れです。

 認知症全体ではアルツハイマー病が最も多いのですが、65歳以下では、血管性認知症のほうが多いことがわかっています。若年の血管障害は重症になりがちですが、合併がないことが多く、回復の可能性があります。アルツハイマー病と異なり、発症を予防することも可能です。これからは、認知症をタイプでみるのではなく、年齢ごとの対応が大事になると思います。

週刊朝日 2013年10月25日号