債務上限問題で大揺れの米国。政治的妥協で目先の危機を回避できても超金融緩和策の結果、米連邦準備制度理事会(FRB)のバランスシート(資産状況)はすでにパンパン。悪性インフレが発生し、世界同時不況を引き起こすリスクもある。

 怖いのは、現時点で悪性のインフレが一度起きてしまうと、それを抑えることができないということだ。

 中央銀行は本来、政策金利を上げ下げして、景気を刺激したり冷ましたりする。ところが、リーマン・ショック以降、FRBはすでに金利を0%近い水準まで下げ、これ以上下げることができないため、新たな手段として超金融緩和策を導入している。このため、イン
フレが起きたとしても、金利を上げて景気を沈静化することができないのだ。

「正常な金融政策、つまり金利の上げ下げをするためには、まず超金融緩和策で膨らませたバランスシートを正常化しなくてはいけない。だが、インフレの状況で保有する国債を大量に売れば、金利はさらに跳ね上がってしまう」(いちよしアセットマネジメントの秋野充成執行役員)

 もはや、通貨の番人である中央銀行は傍観するしかない。

 気になるのは、日本経済への影響だ。いったい、どうなってしまうのだろうか。株式ストラテジストの中西文行氏は、「被害は甚大だ。アベノミクスは崩壊する」と警戒する。

「ドルの信認が失墜すれば、空前の円高が訪れることになる。現在1ドル=97円前後のドル・円相場は、75円台まで急騰してもおかしくない」(中西氏)

 アベノミクスは、歴史的な円高水準を是正することで、企業の収益を回復させ、雇用の増加を促そうとしてきた。それが根底から壊されてしまうのだ。異次元の金融緩和策を打ち出したばかりであるため、効果的な次の金融緩和策も打つことが難しいという。

「業績が回復の途上にある自動車産業は大打撃を受けるでしょう。円安で息を吹き返しつつあった電機産業も壊滅的になる。米国債の価格が急落することになるため、米国債を保有する金融機関もパニックに陥るでしょう」(同)

 景気対策として財政を出動することも難しそうだ。

「消費増税の決断に踏み切ったばかりなのに、ますます国の借金は膨らむことになる。仮に財政出動を繰り返せば、消費税率は何十%引き上げても足りない状況になるでしょう」(同)

週刊朝日 2013年10月25日号