「弱体化した」といわれる党税調を率いる野田会長(写真)。甘利、稲田両大臣には「調子に乗り過ぎ」との声が続出 (c)朝日新聞社 @@写禁
「弱体化した」といわれる党税調を率いる野田会長(写真)。甘利、稲田両大臣には「調子に乗り過ぎ」との声が続出 (c)朝日新聞社 @@写禁

「こんなはずではなかった」。衆・参院選で大勝し、わが世の春を謳歌しているはずの自民党議員から、こんな声が聞こえてくる。原因は極度の「政高党低」だ。高い内閣支持率を追い風にした安倍晋三首相(59)主導による政策決定で、党が“のけ者”になっているのだ。

「党の税制調査会は今回、安倍さんにやりたいようにやられた。完敗だ。これを止める方法は、自民党の支持率を大幅に上げることぐらいしか思いつかない。容易ならざる事態だよ」

 こうため息交じりに嘆くのは同党税調幹部だ。

 完敗とは、安倍首相が突如として提示した、復興特別法人税の税率上乗せを1年前倒しで打ち切る方針を、税調がのんだことを指す。今の安倍首相と党の力関係を如実に示す例だ。

 長年、税制を差配してきた税調のメンバーにとって、何より屈辱ともいえるのは、事前に根回しという「ご説明」がなかったこと。いたくプライドを傷つけられ、9月24日に税調の会合でナンバー2にあたる額賀福志郎元財務相(69)が、財務省、経済産業省の局長に色をなしてこう指示した。

「政府は横着すぎる。我々は何をやったらいいか、一度も大臣が説明しにこないじゃないか。何をしているんだ、君たちは。ちゃんと官邸に伝えなさい」

 その2日後の9月26日、麻生太郎副総理兼財務・金融相(73)と甘利明経済財政相(64)が税調の場に姿を現し、政府方針を説明。震災復興に後ろ向きなイメージを与えるとして反対論が強かった税調も、最後は野田毅会長(72)に一任し、事実上受け入れた。

 今の自民党を覆っている雰囲気の縮図が、税調メンバーのいらだちだ。

「根回しが足りなかったのは事実。経済対策を行う内閣府の甘利さんの動きが悪かった。あの人はあんまり頭を下げて回る人じゃないからね。大臣はえばるのではなく、まず政府側が頭を下げないと」(首相周辺)

 税調は、どの時代も自民党最強の政策集団として君臨してきた。税制は政府ではなく党税調が決めるという不文律があり、国民的支持が高かった小泉純一郎元首相ですら、その例を踏襲した。

 それが第2次安倍政権が誕生して1年もたたないうちに、根回しすることもなく、政府の意向を税調に反映させることに成功したのだ。

 野田税調会長は当選14回という古株だが、一時自民党を離れたことがあり、子分がおらず、政治力があるとはいえない。

「昨年、重鎮でうるさ型の伊吹文明元文科相を衆院議長に祭り上げ、税調のパワーダウンを図ることができた」(同)

 参院選後、政権中枢は、税調のメンバーの中に安倍側近を差し込み、外からコントロールすることなども検討した。しかし今の政治力であれば押し切れると判断した経緯がある。

 自民党の神経を逆なでするような事態はさらに続いている。舞台は国家公務員制度改革関連法案だ。

「所管する稲田朋美行政改革相が9月26日に党側に説明に来たのですが、『これは官邸の意向ですから』と繰り返し、副大臣までもが同じことを口にしていた。何かと言うと『官邸が、官邸が』と口にする稲田氏らへの反発がすごく、集中攻撃されていた」(閣僚経験者)

 稲田氏は「公務員制度改革は第1次安倍内閣からの集大成だ」と説明。中身は内閣人事局が、霞が関の審議官級以上の公務員約600人の人事を一元管理するもの。官邸主導で数字が前に出ることに党側からは不満の声が続出した。

 稲田氏は当選3回。党側には官邸への不信に加え、「軽量級」大臣にまで官邸を印籠のように使われ、不快感が充満していた。

 ある参院幹部はこう説明する。

「『安倍さんがやろうとしていることをバックアップするのが我々の仕事でしょ?』という感じで、彼女はしゃべっていた。それは違う。安倍さんがやりたいことを理解しながらも、違っていたら修正するのが党の役割。そこをまったく理解せず、ただ『官邸が』と言えば通ると思っているようだった」

 党税調という、党で一番の格式ある調査会をないがしろにされ、また「官邸の意向」をかざす3回生大臣に、党のプライドはズタズタになっている。

週刊朝日 2013年10月18日号