5月23日に株価が暴落したが、黒田総裁は10月4日、「金融緩和は着実に効果を発揮してきている」と語った (c)朝日新聞社 @@写禁
5月23日に株価が暴落したが、黒田総裁は10月4日、「金融緩和は着実に効果を発揮してきている」と語った (c)朝日新聞社 @@写禁

 日本銀行の黒田東彦総裁が3月に就任し、時を移さず打ち出した金融政策「異次元の緩和」には、投資家が我を忘れるほどだった。

 景気回復に伴う金利の上昇は財政にも大きな負担となりかねなかったが、黒田総裁は強気だった。5月11日に「経済が成長し、物価が上がっていくなかで、金利が若干上がっていくのは自然な形」などと発言したことから、「金利上昇を認めた」と投資家は受け止めた。インフレ、景気拡大に本気で向かうのだと、金融市場はさらに盛り上がった。

 しかし、ここで「運命の日」を迎える。5月23日だ。伏線は前日にあった。黒田総裁が金利について、「ボラティリティー(変動しやすい状態)が過度に拡大するようなことは極力回避しなければならない」と語ったのだ。ある外国人投資家は、「金利を抑える姿勢に一転した」と受け取った。

「日本の金融政策が変わった。財務省の圧力に負けて、インフレにして景気を持ち上げる道を捨てた」(この外国人投資家)

 そうなれば、逃げ足は速い。翌23日、金利の急上昇(国債価格の急落)に合わせて「円買い・株売り」の流れが進み、為替は一時、2円以上円高に振れた。日経平均も過去11番目の大きさとなる1143円下げた。アベノミクスの「逆回転」だ。それでも日銀は動かなかった。10月3、4日に開いた会合でも、金融政策は現状維持と決めた。

 その間、円安も株高も止まったままだ。どちらも5月23日が頂点で、それを超えていない。為替で言えば、おおよそ1ドル=97~101円台あたりで行ったり来たりするのみだ。

 この「行き詰まり」を見て、主に海外投資家が「日銀は無策だ」と不満を募らせているという。だが、黒田総裁が最初から「必要な政策をすべて講じた」と言ってしまった以上、追加策は「日銀の自己否定につながる」(証券会社幹部)との見方もある。日銀は動くに動けないのかもしれない。

 日銀内部からの突き上げがあるかと言えば、

「金融政策は総裁と官邸がやりとりして、知らないうちに決まっているようなもの。こちらが意見を言っても言わなくても一緒です」(日銀関係者)

週刊朝日 2013年10月18日号