敬礼姿が凛々しい6人の候補者たち。さて、あなたの“推しメン”は?(写真提供:海上自衛隊) (c)朝日新聞社 @@写禁
敬礼姿が凛々しい6人の候補者たち。さて、あなたの“推しメン”は?(写真提供:海上自衛隊) (c)朝日新聞社 @@写禁

“総選挙”の波は、自衛隊にまで押し寄せている。

 選挙の舞台は、9月3日から配信中のスマートフォンのアプリ「Mr.&Ms. JMSDF」。ダウンロードは無料で、海上自衛隊に関する「○×クイズ」に10問中6問正解すると、約4万5千人の隊員から選出された男女各3人のうち、「推しメン」の1人に投票できる。

 候補者の情報は、名前と顔写真と80字程度の略歴だけだが、パソコンでも閲覧可能で、スマホなどではさらに1分程度の「PR動画」も見られる。最も得票数が多かった男女隊員1人ずつは海自の「センター」、ではなく、後日に「広報スペシャルムービー」でお目見えするらしい。ちなみにダウンロード数は9千回超(9月25日現在)。投票締め切りは10月末だ。

 それにしても、なぜ海自が“総選挙”なのか。

「女性や若年層には、海上自衛隊の活動に対する理解がまだ深まっていません。この層への訴求手段として、スマホのアプリは有効だと考えました」

 こう話すのは、海上幕僚監部広報室のアプリ担当者。ただ、その背景には海自の「危機感」が垣間見えると、軍事ジャーナリストの神浦元彰氏は指摘する。

「航空自衛隊の広報マンを描いたテレビドラマ『空飛ぶ広報室』(TBS系)がヒットし、空自に注目が集まりました。海自は焦っているように感じます。この際、若い世代が使うスマホを利用して、起死回生をはかりたいのでは」

 海自特有の事情も絡んでいそうだ。元防衛庁長官官房広報課勤務で、拓殖大学客員教授の潮匡人(まさと)氏はこう解説する。

「海上自衛隊の任務は、いったん船に乗ると長期間にわたり拘束されます。船上では携帯電話も通じません。これらに抵抗を感じる若者が増えたためか、海自は自衛官採用に苦戦しているようです。以前は海外渡航にひかれて入隊する人も多かったですが、最近の若者には響かないようです」

 実は、海自の公式アプリは今回が初めてではない。2010年末、海自式の正しい敬礼を訓練できる「SALUTE TRAINER」を配信。このアプリは11年カンヌライオンズPR部門で銀賞を受賞し、ダウンロード数は10万回を超えた(現在は配信終了)。

 巻き返しを狙い、お得意の「アプリ攻撃」に訴えた海自。「海行く広報室」となれるか。

週刊朝日  2013年10月11日号