福島第一原発の汚染水問題で追いつめられていた東京電力に、追い風が吹き始めている。

 9月27日、ようやく開かれた衆院経済産業委員会に出席した東電の広瀬直己社長は日本維新の会の今井雅人議員に、「汚染水は本当にコントロールできているのか」と問われると、淡々とこう語った。

「安倍首相のご発言と私どもも全く同じ考えを持っております」

 部下で技術部門トップである山下和彦フェローの「コントロールできていない」という発言を全否定し、安倍政権に恭順する姿勢を明確にしたのだ。

 それもそのはず。3兆円を超える負債を抱える東電にとって安倍政権は、何よりも強力な“後ろ盾”だからだ。

 国の庇護の下にある東電が27日に、新潟の柏崎刈羽原発6、7号機の再起動に向けた審査を申請すると、銀行団は10月に返済期限を迎える800億円の借り換え融資に応じる方針をあっさりと決めた。

「汚染水問題が発覚した当初、銀行団の中の一部、地方銀行は融資継続に異を唱えていたが、安倍首相が対策費として470億円の国費を投入すると明言すると流れが変わった。国が全面的に事故処理に当たってくれれば、“担保”となるので安心して融資できます」(銀行団関係者)

 だが、東電にはさらに“茨の道”が待っている。

 12月には2千億円の返済期限がくるほか、新たに3千億円の借り換えも迫る。そして事故の賠償金は最低でも3.8兆円、除染費、廃炉関連費、汚染水対策など総額で10兆円以上はかかると試算されている。

 われわれの税金である国費を泥縄式に投入していけば、際限がないのだ。

 経産委員会で国の支援拡大を堂々と訴えた広瀬社長に眉をひそめたのが、事故当時に首相補佐官として事故処理にあたった民主党の馬淵澄夫衆院議員だ。

 東電が2011年6月に約束していた地下遮水壁の建設を、巨額の費用負担で経営危機に陥ることを恐れて見送ったことを暴露し、こう迫った。

「社長、国費が出なくても、やるという覚悟をお持ちではないのか」

 広瀬社長はノラリクラリと官僚答弁を繰り返した。

「東電は会社としての事業継続と事故収束のどちらを優先すべきか、ジレンマに陥っている。このままでは無責任の連鎖に陥ってしまう。政府がしっかりグリップするべきです」(馬淵氏)

週刊朝日 2013年10月11日号