園子温監督が約20年前に執筆した幻のオリジナル脚本に加筆し制作した、映画「地獄でなぜ悪い」に出演した俳優の長谷川博己さん。自身の“俳優論”をこう語る……。

「自分に性格なんかないです」と断言した。「ご自身の性格を端的に表現すると?」と質問したときのことだ。

「俳優としては、自分の性格なんて、あっても邪魔なだけです。役を演じながら思ったんですよ。“性格なんて、自分で勝手に当てはめているだけ”って。人間は、複雑でよくわからない生き物だし、わからないからその先に可能性が広がっていく。自分の性格はこうだなんて決めつけないほうが、人は自由でいられる気がするんです」

 テレビドラマや映画で、幅広く注目を集めている36歳。大学を卒業後、文学座の研究所で芝居を学んだことが、この世界に入るきっかけになった。

「大学3年ぐらいになると、やりたいことがあっても、みんな“就職しなきゃ”って焦るじゃないですか。ただ僕の場合、たまたま美大生の友達が多くて、彼らは“何で就職なんかするの?”って雰囲気で。僕も、“30まではやりたいことをやろう。ダメだったらそのとき考えよう。30なら、まだやり直しはきくだろう”と思っていました」

 やがて、芝居をやっていくうちに、「役者っていうのはなんていい仕事なんだろう!」と思うようになる。

「身体を使う、ある種の肉体労働なんだけれど、一方でアカデミックな要素も強い。精神と肉体を両方鍛えることができる仕事って、ほかにはなかなかないじゃないですか。しかも、精神と肉体を訓練しておけば、役者がダメになっても、どんな仕事に行っても応用が利くと思ったんです。役者が役になるのと同じように、勉強してその職業になればいいだろう、と」

 
 まもなく公開の映画「地獄でなぜ悪い」で、長谷川さんは、映画監督を目指す青年を演じている。

「劇団に入ったばかりの頃、いくつか、“こんなことやりたい”“あんなふうになったらいい”と妄想していた世界があって。今回の台本には、そのうちのひとつとまったく同じ“映画づくりの現場”が描かれていたんです。なので、オファーを頂いたときは本当に驚きました。まさにこれこそ自分がやりたかった役だ、と」

 園子温監督の映画に出演することもかねて念願だった。かつて、監督のホームページの書き込み欄に、「あなたのこの作品が好きです」「こんどこういう芝居をやります。よかったら見に来てください」などとメールを送っていたこともあったとか。

「俳優になって不思議なのは、口に出さずに心にしまっておいた妄想や野望のようなものが、いつしか現実の役となって巡ってくることが何度かあって。そういう運命の巡り合わせみたいなものを経験すると、つくづく、人生って、何が起こるかわからないなと思います。口に出してしまったことはかなったためしがないので、本当にやりたいことは、絶対口にしませんけど(笑)」

 ラストシーンがとくに印象的な映画だ。そのシーンを撮り終えた後、力を出し尽くしたのだろうか。彼はその場に倒れ込み、次の日は、40度近い熱を出して寝込んだという。

週刊朝日 2013年10月4日号