49年ぶりにホームランのシーズン日本記録を更新したヤクルトの主砲バレンティン(29)。三冠王への期待も高まるが、もうひとつの「タイトル」にも、さまざまな意味で注目が集まっている。セ、パ両リーグから1人ずつ選出されるMVPだ。
MVPは「最優秀選手」に与えられる賞とされる。プロ野球取材歴5年以上の記者による投票で決められる。元巨人の王貞治さんが打ち立てた大記録を塗り替えたバレンティンならば選ばれる資格はありそうだ。
野球解説者の田尾安志氏が語る。
「今季『いちばん価値のある選手』という点でいえば、十分その価値はある。(記録を更新した)阪神戦でも、いつもより1万5千人も観衆が多かった。野球人気にも貢献しています」
だが、話はそう単純ではない。MVPは例年、両リーグの優勝チームから選出されるという「不文律」があるからだ。MVPが最優秀選手と改称された1963年以降、優勝チーム以外から選出されたのは10人のみ。4位以下のチームからとなると、82年の落合博満(ロッテ)、88年の門田博光(南海)、2008年の岩隈久志(楽天)の3度だけ。最下位からはもちろんゼロだ。野球解説者の江本孟紀氏が語る。
「慣例上、優勝チームから出さざるを得ないんじゃないか。ヤクルトは優勝どころか、最下位ですからね」
ヤクルトのある番記者もこう肩を落とす。
「記者たちの間では『取れたらいいね』とは言っているが、雰囲気的に難しいだろうという実感です」
ヤクルトに在籍していることが「足かせ」になるとなっては、オフでの「電撃移籍」も気になるところだが……。
※週刊朝日 2013年10月4日号