近年の研究で、糖尿病患者は認知症のひとつであるアルツハイマー病にかかりやすいということが分かってきた。世界からもさまざまな研究が報告されているという。

 東京都健康長寿医療センター内科総括部長の荒木厚医師が、ある海外の論文を見せてくれた。世界中から報告された16の論文をまとめ、解析し直したものだ。5千人の糖尿病患者と3万6千人の非糖尿病患者を比較している。

「この解析で、糖尿病の患者さんはそうでない人の2.48倍アルツハイマー病にかかりやすいことが明らかになりました。脳血管性認知症は1.46 倍。いずれにしても糖尿病になると認知症を発症しやすいということです」(荒木医師)

 日本の代表的な疫学調査に「久山町研究」がある。福岡県糟屋(かすや)郡久山町の住民を対象にした調査だが、やはり糖尿病があると、そうでない人の2.05倍アルツハイマー病にかかりやすいという結果が出ている。

 この研究では、研究開始から10~15年の間に亡くなった135人の脳の状態を調べている。その結果を、あらかじめ調べてあった町民の血糖値やインスリンの血中濃度などと照らし合わせると、「2時間後血糖値」(空腹時にブドウ糖溶液を飲み、2時間後に測った血糖値)が高い人や、「インスリン抵抗性」が強い(インスリンの働きが弱い)人ほど、アルツハイマー病で見られる異常なタンパクによる「老人斑」が形成されていた。

「インスリン抵抗性は糖尿病になる前、糖尿病“予備軍”の段階から発生しています。糖尿病になっていないから安心なのではなく、予備軍と指摘された時点で注意が必要です」(同)

 日本の糖尿病人口は約270万人。予備軍を含めると、国民の4人に1人にもなる。その人たちがみな「アルツハイマー病予備軍」でもあるわけだ。

「ところが、糖尿病やインスリン抵抗性がアルツハイマー病の危険因子であることを知らない人が多い」と明かすのは、大阪大学医学部付属病院老年・高血圧内科医学部講師の竹屋泰医師。同科では、「もの忘れ入院」や「もの忘れ外来」を開設し、これまでに2000人以上が利用している。受診者にはもの忘れ度を測る一般的な認知機能検査だけでなく、血糖値や脂質代謝異常などの検査もあわせて実施している。

「検査の結果、糖尿病やその予備軍に当てはまる人には、アルツハイマー病のリスクが高まることを説明しています。この話をすると、ほとんどの方が驚き、表情を曇らせます」(竹屋医師)

週刊朝日  2013年9月27日号