歌手として、俳優として、常に注目を集めてきた福山雅治。老若男女から愛されながら、いまも独身。そんな彼が初めて“父”を演じた―。

 低く、滑らかな声で初めに語りだしたのは自身の家族観だった。

「僕の偏見なのかもしれないのですが、絵に描いたような“いい家庭”って、あんまり見たことがない。お父さんは浮気もせず、優しいけど大事なところでは叱ってくれて、いつも味方。苦しくない程度のローンで家を買い、子供たちも決してグレたりせず……そんな家庭にはあまり出会うことがなかったですねぇ」

 是枝裕和監督の映画「そして父になる」で、父親・良多を演じた。完璧な人生を送る中、6歳になる息子が実は病院で取り違えられた他人の子だったと発覚するところから物語は始まる。

「自分の家庭のことを思い出しましたね。振り返ると、あのとき怒られたことはたぶん八つ当たりだったな、みたいなこともありますよ(笑)。それが大人になって、理解できるようになった。家族は最初から完成されているのではなく、少しずつ父になり、母になっていく。この映画を撮りながら、改めてそう感じていましたね」

 初めて見せた父親役だが、「いいところが一個もなかった」と笑う。リリー・フランキーさん演じるもう一人の父親との対比も見どころのひとつ。

週刊朝日  2013年9月20日号