中国で安全性に問題のある食品が増え続け、深刻化している。なぜここまで広がったのか。ライターの杜丘由宇氏がレポートする。

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 この3年弱(2011年~13年)の食品汚染事件の特徴は、大きく二つある。ひとつは大企業が事件の主役として登場するようになったことだ。

 双匯、満記甜品、雲南豊瑞油脂、コカ・コーラ、ウォルマート、光明、亜華乳業、酒鬼酒、ケンタッキー、農夫山泉は、中国全土や各地域で知られる著名企業・ブランドだ。信頼されていた大企業だけに、その不祥事が消費者に与えたショックは大きく、食品への信頼を失墜させた。

 もうひとつの特徴は、非食用の化学物質や重金属による汚染が急増していることだ。アルミニウム、痩肉精、ホルムアルデヒド、亜硫酸ナトリウム、牛乳膏、吊白塊、亜硝酸塩、工業用パラフィン、工業用塩化マグネシウム、可塑剤、工業用苛性ソーダと、使用された化学物質や重金属を挙げれば枚挙にいとまがない。

 調査報道で知られる週刊誌「新世紀」電子版は12年6月、「中国人が不幸にして食べている20種類の化学工業原料一覧」を掲載した。

 同記事を書いた宮靖記者は「これだけの化学物質を誰が食品用に“開発”したのか。化学者の黒幕の存在を疑う向きもある」と話す。おりしも台湾では今年5月に、化学物質の無水マレイン酸を用いた“毒でんぷん”の製造方法を発明した元高校教師が逮捕されたが大陸にもこうした人物がいるのではないかというのだ。

「痩肉精、地溝油、一滴香、膠面條……」、これは11年5月に微博(ウェイボー)で盛んにリツイートされた「抗毒三字経」だ。漢字学習書の古典、三字経をもじり、次から次へと出現する汚染食品や汚染物質の3文字の名前を並べたものである。

 いま中国では、食品汚染がもっとも人々の口に上る話題となっている。中国料理店の円卓で料理を囲みながら、食品汚染を嘆くなんてことが日常化している。

「富裕層が郊外に別荘を建て、隣にプライベートの野菜畑や養鶏場を設けている」、そんな話が上海ではまことしやかに語られている。

 河南省出身のカメラマン、蔡さん(仮名、30歳男性)は嘆く。「これだけ事件が続くと驚きを超え、神経がまひしてくる。いまの中国に安全な食べ物なんてない」

 一方、広告会社で働く上海人の李さん(仮名、40歳男性)は「極力安全な食材を買い、自分で料理するようにしている。野菜は比較的安心な上海産を選んでいる。“地溝油”が怖いので、レストランでは食べたくない」という。

 中国でこれほど頻繁に食品汚染事件が起こり、不名誉な事件に大企業が名を連ねる原因のひとつに、中国の農村や食品加工企業の“集約化”が極端に遅れていることがある。11年6月時点で、中国には45万社の食品メーカーがあったが、このうち80%以上が従業員10人以下の零細企業だった。農業も産業化が遅れ、農家のほとんどは零細農家だ。

 こうした零細の企業や農家の商品・農作物は、仲買人が買いつけ、最終的にメーカーまで行き着く。

週刊朝日  2013年9月20日号