現役時代はアマの全日本王者と頻繁にスパーリングをしていたという竹原氏(撮影/写真部・工藤隆太郎)
現役時代はアマの全日本王者と頻繁にスパーリングをしていたという竹原氏(撮影/写真部・工藤隆太郎)

 東洋太平洋王者を相手に2ラウンドTKO勝ち――。ボクシングのロンドン五輪ミドル級金メダリスト、村田諒太(27)が鮮烈なプロデビューを果たした。最も選手層が厚いミドル級で、村田は頂点に立てるのか。日本人で唯一、同級の世界王者となった竹原慎二氏(41)が分析した。

「プロデビュー戦(8月25日)の相手は東洋太平洋王者の柴田明雄でしたが、力の差がありすぎましたね。デビュー戦なのに相手を完全にのみ込んで、押し切った。すごい試合でした」

 興奮気味に語り始めた竹原氏は1995年、日本人として初めてミドル級の世界王座に挑み、圧倒的不利の予想を覆してベルトを奪取した。世界の最強階級を肌で知る竹原氏から見て、村田の長所とは何か。

「プレッシャーのかけ方ですね。逃げる相手を追い詰めて、最後は右ストレートで仕留めた。格下相手であればいつでもプレッシャーはかけられるけど、デビュー戦、しかも現役の東洋太平洋王者を相手に実行できるのはすごい。まあ、僕は彼のデビュー前から、『いますぐでも、日本や東洋クラスなら勝つ』と言ってきましたから」

 足を使って距離を取ろうとする相手に対して1ラウンド、ジャブからの右ストレートでダウンを奪う。そして2ラウンド2分24秒、強烈な右ストレートが相手のアゴをとらえると、レフェリーが試合を終わらせた。「今日は80点ぐらいはいいですか?」。試合後、村田は涼しげな表情で振り返った。

「ロンドン五輪や4月のプロテストも見ましたが、着実に強くなっています。相当いい練習をしているんでしょうね。五輪では両腕を高く上げ、しっかり顔を隠した“亀スタイル”でしたけど、この試合では左ガードを前にしながら、前進していった。相手は村田の強烈な右を意識するから、打って出られないですよ」

 村田はプロ転向後、米・ラスベガスで3度の合宿を張り、元キューバ代表コーチで世界的な名トレーナーであるイスマエル・サラス氏の手ほどきを受けた。三迫ジムに所属しながら、世界中に人脈を張り巡らせる帝拳ジムの全面的なバックアップも受けている。

「僕も現役時代に2度、ロサンゼルスで修業しました。国内ではミドル級の練習相手がさほど多くない。向こうで外国人選手とたくさんスパーリングをすると、実力がつきます。村田は資金力のあるジムに所属しているので、海外合宿に加え、スパーリングパートナーを海外から呼んでもらえる。恵まれた環境ですね」

 身長182センチで、見るからにがっしりした村田の体について、竹原氏は「申し分ない」と太鼓判を押す。

「僕がミドル級の世界王座を獲得してから、4人の日本人がミドル級王座に挑みましたが、総じてみな線が細かった。骨格が大きくないとパワーは出にくい。でも村田は違う。彼のパワーは本物ですね」

週刊朝日  2013年9月13日号