社長から会長に就任した総合電機産業テコットの島耕作(65)。作者である弘兼憲史さん(65)と隅修三・東京海上ホールディングス会長(66)は、対談の中で中国や他国との経済界事情と日本の未来についてこう語った。

隅:中国の場合は、特殊な形で国と経済が密着しています。でも、アメリカとかヨーロッパも、経済界が発展してこそ国の成長があるという概念がある。これは当たり前の考えです。日本は極端に政治と経済を分けてきましたが、もっと近くあっていいと思います。ここ最近は、だいぶ近くなったと思いますが。

弘兼:安倍首相が海外に行く時は、経済界の連中も随行したりしていますからね。池田首相が「トランジスタのセールスマン」と言われた時代に少し戻ったというか、確かに最近は以前よりは官民一体の政策ができてきているような気がします。

隅:今、アベノミクスの成長戦略がいくつも出ていますが、私自身、一人の国民として、日本が持続的に健全に成長できる道をつくってほしいと心から願っています。

弘兼:本当にそうですね。でもそのためにはどうすればいいんでしょうね。

隅:私が考えている日本が生き残る道の一つは農業と観光を一体的に考えることで、日本を観光立国にすることです。

弘兼:農業問題と観光問題を一体化するわけですか。

隅:ええ。例えばイタリアをイメージしてください。観光客はローマもミラノも行きますけども、同時に普通の町や村々の人々の日常生活の場そのものが観光ポイントでもある。日本も農家へ戸別補償金を出すのではなく、景観補助金として出して、イギリス郊外の丘陵地帯のような美しい景観をつくり、観光客を呼び込むんです。

弘兼:その中に、農家と直結した観光も入れる。

隅:そうです。もちろんIT産業もやったらいいと思うけど、若い人しか働けないでしょう。日常生活が観光になるなら、老若男女すべての人が観光の資源になるし、雇用も拡大します。

弘兼:なるほどね。

隅:あるいは、津波で被害にあった海岸線をコンクリートで固めるのではなく、避難経路は完璧なものをつくると同時に、町や港のすばらしい景観を再興し、世界で有名になった「津波」という言葉を使った「津波街道」をつくる。そうすれば世界中から観光客が訪れるのではないか。そんな夢みたいなことを思っています(笑)。

弘兼:でも僕も農業について考えていました。農業の輸出額はオランダがアメリカに次いで2位らしい。九州ほどの国土しかないオランダが2位になれるってことは、日本だって工夫次第でやれると思うんです。ビルの中だって水耕栽培はできる。新しい農業の可能性を探るべきですね。実は、島耕作を経済団体の農業委員会に入れようかと思っていたところなんです(笑)。

隅:いいですね! 島さんには積極的にそういう発信をしていただき、引っ張っていただきたいものです。

※ 週刊朝日 2013年9月13日号