オバマ大統領は、まもなく踏み切るとされているシリアへの空爆。化学兵器の再度の使用を防ぐための「懲罰的」な短期の軍事行動と示唆し、5隻の駆逐艦を地中海に派遣した。日本でも報道されるシリア情勢だが、その報道に現地との温度差を感じると軍事ジャーナリストの黒井文太郎は言う。

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 シリア国内に住む友人・知人たちから話を聞いていると、国外で報道されている論調、とくに日本で報じられている“反政府軍=テロリスト”的な論調と、現地からの声に大きな温度差を感じた。

 筆者の友人・知人の多くはごく一般的なシリア国民だが、彼らは一貫して「戦いは、独裁政権に対する民衆の抵抗」と言っている。最近は外国からの義勇兵も増え、アルカイダばりの過激なイスラム思想を掲げる民兵グループもシリアで台頭してきてはいるが、反政府軍の主流は今も、地元有志が立ち上がった革命軍で、武器も海外からの支援ではなく、政府軍拠点を攻略して鹵獲(ろかく)したものを使っている。

 ダマスカス近郊カーブーンの反政府軍に加わっている従兄弟の息子も「自分たちの部隊に海外から武器が届いたなんて聞いたことがない」と断言している。カタールやサウジアラビアなどが購入した少数の武器が反政府軍に入っていることはたしかだが、その配給を受けているのは、国境地域を中心に、一部の部隊に留まっていると聞いている。

 彼も含め、国内で反体制派に参画している誰に聞いても、「海外勢力の代理戦争」というような海外での論調を一蹴していた。

「オレが外国に扇動されたテロリストだって? そりゃ面白いジョークだ」

 カーブーン生まれの従兄弟の息子は最近、そんなメッセージを元妻に送ってきたという。

 とにかく今、化学兵器まで使用したアサド政権軍による国民への無差別攻撃を、誰でもいいから、なんとか止めてほしい……。それが反政府軍に加わっていない知人たちも含めた、現地の悲鳴だ。

 シリア国民、少なくともアサド政権の暴力に晒されてきた人々は、もう2年半前から、国際社会が救いの手を差し延べてくれることを期待し続け、裏切られ続けたことに失望してきた。

 アメリカは「軍事介入はあくまで化学兵器使用を抑止する限定的攻撃」と強調するが、南部ダラア県で反政府軍に加わる友人のアハマドはこう言う。

「米軍が政府軍の飛行場を破壊してくれれば、やつらの航空戦力が無力化する。そうなれば、あとは米軍の支援なしでも、我々だけで勝利できるはずだ」

 軍事介入をきっかけにシリア国民が救われることを祈るばかりだ。

週刊朝日  2013年9月13日号