日本人の死因1位である「がん」。超高齢化社会がやってくる2030年、その治療法はどうなっているのだろうか。東京都医学総合研究所・参事研究員の池田和隆氏(47)に伺った。

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 われわれは、遺伝子の配列の違いの分析で痛みを効果的に抑える研究をしています。2030年には、がんの痛みを抑える治療法も確立しているでしょう。病気になっても、患者は痛みに苦しむことなく、治療に専念できるのです。

 遺伝子を分析すると、将来どんな病気にかかる可能性があるのか、どんな体質があるのかがわかってきて、それを診断や治療に生かす技術の研究が世界の医療機関などで進んでいます。身近な例でいえば、遺伝子を分析することで、アルコールに強いか弱いか、簡単にわかるようになっています。

 近年の医療界では、患者の「痛み」をどう抑えて、充実した生活を続けてもらうのかが非常に重視されています。「痛み」は、患者の“生活の質”を落とすだけではなく、治療の妨げになってしまうケースも少なくないからです。

 そのため鎮痛薬を患者に授与しますが、人によって鎮痛薬の効き方には違いがあり、患者の状態をみながら投与量を変えていく必要があります。つまり、痛みを抑える治療は、これまで医師の手探りでなされていました。

 こうした状況を打開すべく、われわれと東京歯科大学の研究グループは、鎮痛薬の効き目に影響する遺伝子の分析をすすめています。そして2012年1月、口の粘膜から採った遺伝子の分析から、患者の「痛み」を取るのにちょうどよい鎮痛薬の量を突き止めることに、世界で初めて成功しました。

 このデータを解析して、適切な鎮痛薬の量を決める計算式をつくりました。この計算式を使えば、患者ごとに鎮痛薬の投与量を決めることができます。つまり、オーダーメードで、痛みを抑える治療ができる可能性が出てきたのです。

 すでに歯のかみ合わせを矯正する「下顎形成外科手術」という手術を受ける患者を対象にして、東京歯科大学水道橋病院で、この治療は始まっています。

 われわれは、ここからさらに、がんが原因で起こる痛み「がん性疼痛」を抑える研究を進める予定です。遺伝子を分析して、適量の鎮痛薬を投与すれば、患者は痛みに苦しむことなく、がんの治療に専念できます。また、鎮痛薬には吐き気などの副作用があるのですが、これを抑える薬も効果的に患者へ投与できます。

 病気になっても痛みに苦しむ患者が減らせるように、この研究をさらに加速させ広げていくつもりです。

週刊朝日  2013年8月30日号