動燃の象徴である高速増殖炉「もんじゅ」は、トラブル続きでいまだ、運転再開に至っていない (c)朝日新聞社 @@写禁
動燃の象徴である高速増殖炉「もんじゅ」は、トラブル続きでいまだ、運転再開に至っていない (c)朝日新聞社 @@写禁

 高速増殖原型炉「もんじゅ」の点検放置など不祥事が続く日本原子力研究開発機構(JAEA)に対し、文部科学省は8月8日、改革の基本方針をまとめた。業務を整理し「もんじゅ」の運転に集中させるなどの内容だが、前途が茨の道であることは変わらない。

 本誌が今春、6回にわたって連載したとおり、JAEAの前身である動燃(動力炉・核燃料開発事業団)の内部資料「西村ファイル」には、20年以上前から変わらない「原子カムラ」の体質が克明に記されていた。取材班はその後、さらに多くの未公開ファイルを発見。

 その一つは、原発見学者に対する“思想差別リスト”だ。見学希望者が「反原発派」とわかっただけで“大パニック”になり、動燃は見学を拒否する――。「西村ファイル」には、そんな記録が残っていたが、1990年4月に動燃が作成した〈事業団視察・見学者受入れ対応基準〉なるリストには、見学者が身分や思想によってAからFまで6段階にランク分けされる実態が綴られていた。

 最高のAランクは〈科学技術庁、通産省等の役職員〉や〈原子力委員、安全委員等〉など、動燃の予算を握り、存続をも左右する霞が関の幹部たち。対応の欄にはこう書かれていた。〈事業団の役員、事業所長による概況説明〉〈相手の希望する施設全て(管理区域を含む)〉。所長自らが説明役となり、望むものすべてを見せる――まさに至れり尽くせりの“VIP待遇”だ。

 それに比べると〈一般見学者〉はDランクで、扱いは天と地の差である。〈常設展示館に於ける概況説明〉。つまり、原発の模型などを陳列した展示館を見せられるだけで、原発本体には入れないのだ。構内を一巡するバスツアーも、〈下車させない〉と、公開の原則を無視した上から目線。事実上の“門前払い”である。

 ところが、不可解なことに〈事業団業務受注業者〉や〈原子力施設立地住民〉は一般見学者より格上のCランク。見学内容も、Dランクにはない次の一文がつけ加えられていた。〈施設見学は業務を勘案のうえ、判断する〉。

 原発本体の見学にも含みを持たせているのだ。「原子カムラ」の一員である関係業者や“懐柔対象”である原発立地地域の住民を、明らかに優遇している。

 最低のFランクは〈事業団にとって好ましくないと判断される者〉。対応方針は次のとおりだ。〈展示館及び構内の入構を禁ずる〉〈既に構内にある者については、退去させる〉。まさに“出入り禁止”。

 それでは誰が「好ましくない者」なのかというと、〈構内の秩序を乱す者〉や〈事業団の業務を妨書する者〉などだという。実際には「もんじゅ」の建設停止を求めて動燃を提訴していた原告団の一員が、見学を拒否された実例がある。「好ましくない者」は、動燃の都合で判断されるのだ。

 JAEA広報部に見学の基準について聞いても「その時々の施設の状況によります」と、歯切れが悪い。見学者差別は、今も続いていると疑わざるを得ない。

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週刊朝日 2013年8月30日号