心臓病の診断や治療法は変化の時を迎えている。日本心臓弁膜症学会世話人で心臓超音波検査に詳しい、東京ベイ・浦安市川医療センターハートセンター長の渡辺弘之医師に話を聞いた。

*  *  *

 20年ほど前まで、大動脈弁狭窄症はリウマチ熱という、感染症による弁の変性によるものが多かったのですが、現在では、広い意味での動脈硬化によって起こる、弁の石灰化が原因となる狭窄が増えています。この変化は、私たちの寿命が延びたことが背景にあります。

 また、心臓超音波検査(心エコー)から導き出された重症度の指標が、実際の重症度と違うことがあることも明らかになりました。たとえば、通常は弁口が狭くなるとそこを通過する血流の速度が上がりますが、エコーで速度が正常と診断されたのに症状が現れる人がいます。検査の一部では異常がないのに、実際に弁の狭窄が起きていることがあるのです。

 その理由は近年わかってきました。心血管障害をもたない健康な人でも、加齢によって心筋が肥大したり、左心室の容積が少なくなったりするなど、心臓の形態が変わってくるためです。

 大動脈弁狭窄症のもっとも有効な治療法である大動脈弁置換手術(AVR)は、人工弁とともに進化し、死亡率や合併症率も低下してきました。さらに近年、高齢者や、手術ができない患者のために開発された経カテーテル大動脈弁植え込み術(TAVI)が有用であることが、米国や日本の臨床試験で示されました。

 また将来的には、以前にAVRをした方の生体弁が寿命を迎えたとき、再び弁置換術を行うよりも、TAVIであればずっと安全に治療できるだろうことも報告されています。

 しかし一方で、治療しても残念ながらからだが弱ったまま回復しない人もいます。もし今後TAVIを無制限に行うとすれば、そうした患者さんを増やしてしまうことにもつながりかねません。ご本人やご家族の苦労はもちろん、医療経済的な損失も大きくなります。そのため、どのような患者さんをこの治療法の適応とするかが今後の課題です。

 治療法や病態などが複雑になっている現在、ハートチームという心臓治療のプロ集団の結成は不可欠です。患者さんにとって最適な治療法をいかに提供するかを議論して考えているかが、いい病院の指針といえます。

週刊朝日  2013年8月16・23日号