資料写真:旧石垣空港(写真提供:樋口博昭)
資料写真:旧石垣空港(写真提供:樋口博昭)

 石垣島に行ったという生物学者で早稲田大学国際教養学部教授の池田清彦氏。だんだんと消える同島の自然を見て、ある皮肉を感じるという。

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 7月の上旬に女房と石垣島に遊びに行った。ここの所、無闇に忙しくて、カミさんと遊ぶヒマもなかった。つかの間の休日である。僕は虫を採りたいのだけれど、女房の希望を優先して、今回はシュノーケリング主体の旅行である。石垣島には新空港が完成して羽田から直行便が出て便利になった。しかし、私としては前の空港の方が情緒があって良かった。市内にも近かったし、直前に駆けつけても飛行機に乗れたしね。建物はきれいになる。遠くなる。殺風景になる。管理がきつくなる。新空港は大体こういうパターンが多い。昔の方がよかったというのは、まあジジイになった証拠だけれど。

 空港でレンタカーを借りて宿に向かう途中、沖縄の虫友に教えてもらったポイントに立ち寄って、マルガタオオヨツボシゴミムシを探す。やっと動かせるくらいの材木をエイヤッと引っくり返すと、いたいた。4頭のきれいなゴミムシが逃げまどっている。2頭だけ採って残りは見逃してやった。というのはウソで、実は逃げられたのだ。なんせ手が2つしかないもので。残念だけれど仕方がない。

 翌日はパナリ島でシュノーケリング。この3月に講演に行った際に知り合ったフージーマリンサービスの岸本麗さんに案内してもらう。パナリ島は西表島の南東にある2つの島から成り、人口はわずか20人くらいらしい。周囲にはサンゴ礁が発達し、サンゴの覆度は100パーセントに近く、色とりどりのエダサンゴがとりわけ美しかった。魚は思ったほど多くはないが、サンゴの美しさは今まで見た中で一番であった。

 次の日には川平湾に行ってグラスボートに乗った。私が初めて川平を訪れたのは1967年の春。沖縄はまだ返還前で川平には旅館も民宿もなく、民家に泊めてもらった。その頃、川平の海は黒真珠の養殖が盛んで、現在のパナリ島と同じくらい美しかったが、今は見る影もない。水温が上昇して、サンゴと共生しているゾーザンテラが死滅して、そこから栄養をもらっていたサンゴも生きられなくなったとか、オニヒトデに食われたとか、原因は色々あるのだろうが、一番の原因は開発が進んで海が汚染されたことだ。

 美しい自然を求めて観光客が押し寄せれば、美しい自然は徐々に消えていってしまうというのは、なんとも皮肉なことである。屋久島も小笠原も、世界遺産に指定されて、自然環境は確実に劣化した。まあ人間が絶滅すればすぐに元に戻るだろうから、マクロに見れば大した問題ではないのかもしれないけどね。

週刊朝日 2013年8月2日号