福島第一原発の事故後、警戒区域だった地区で今年5月、火災があり、住宅が全焼した。報じられていないが、この火災には警戒区域が解除された地区だったための事情があって、被害が拡大した可能性がある。「国境なき記者団」日本特派員の瀬川牧子氏が取材した。

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 火災が起きたとき、消防の態勢が整っていなかった。まず、人員が足りなかった。「以前は消防団員を集められたが、いまはまったくできない。最初の30分、現場は4人で対応しました」(南相馬消防署小高分署員)。

 何より消火しようにも水道が通っておらず、消火栓が使えなかった。そのため近くの小学校のプールの水を使った。「プールまでホースを引くのに時間がかかりました。近くに消火栓があれば10分以上早く消火にかかれたはずです」(同)。

 火災の原因にも不審がある。出火当時、家は無人で、現場検証をした福島県警の警察官から、自宅が全焼した松本幸枝(さちえ)さん(40)は、「漏電の可能性がある」と聞かされたと話す。「リビングの燃え方がひどく、雨漏りか、小動物が入り込んで電線をかじったりしての漏電が考えられる、と聞きました」。

 松本さんは警戒区域の解除後、仮設住宅から数日ごとに自宅を訪れたが、電気を使った記憶がない。日中しかいられず、水道が使えないため掃除もできず、家の中を見回るぐらいで帰っているためだ。

 だが、火災の数日前、ボランティアの夜警団が、夜間、松本さん宅の2階に電灯がついているのを見たという。「私は電気をつける必要がない。小高(おだか)地区の警戒解除後、見知らぬ人が勝手に家に入り込んで泊まることがあると聞いていたので、心配していたんです。勝手に入り込んだ人が電気を使ったのかもしれない」(松本さん)。

 松本さんの苦労は、火災後も続いた。小高地区では、放射性物質に汚染されている可能性があるため、ごみを勝手に処分することができない。自宅の燃えがらも、勝手に運び出すことができないのだ。

「焼け跡を片付けようと思っても、どうしたらいいかまったくわからない。市に聞いたら 『うちは関係ない。県に聞いて』と言うし、県に聞いたら『うちじゃない。国だ』と言う。環境省の本庁に聞いたら、『市が勝手に(警戒区域を)解除したんだから、市に聞いて』って。たらい回しですよ」(同)

 我慢ならなくなった松本さんは市に強く抗議した。「焼けたものは自分で片付けろって、放射能ごみなんだから、どうしようもないんですよ! 市長の責任で解除したんだから、市長が現場に来てください!」

 強い剣幕に押されたのか、桜井市長が松本さんの自宅跡に出向いてきた。「市長に『責任とってください! 解除したのはあなたでしょ!』って追及したんです。市長は『私の責任だ。申し訳ない』ってひたすら謝ってました」(同)。

 数日後、警戒区域や避難区域の除染を担当する環境省福島環境再生事務所の職員が現場を訪れ、次のように説明した。「片付けに関して、市から頼まれて支援することになりました。100%希望に沿えるかはわかりませんが、やらせていただきます」。この後、同事務所によって焼け跡が片付けられ、現在は燃えがらが袋にまとめられ、仮置き場に運ぶまでの間、敷地内に積み上げられている。

 この作業中、松本さんは、同事務所の職員から、「環境省が片付けをしていることはおおっぴらにしないでください」と言われ、「口止めをされたようだ」と不審がる。

 編集部が同事務所に発言の意図を確認すると、次のように答えた。「一般廃棄物は一般論としては市町村で担当するものだが、今回は市長のほうから特別な地域だから国で対応してほしいと要請があり、緊急避難的に対応した。そのため特例と説明した」。

週刊朝日 2013年8月2日号