俳優、演出家、脚本家として活躍する河原雅彦氏は、長年愛用してきたおんぼろパソコンについて、こう話す。

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 さて、今回の気になちょるもの、目下の最右翼は自前のノートパソコンの寿命だったりするのですな。

 かれこれ使い始めて4年ちょい……。もうね、いよいよ限界ですよ。インターネットの接続がアホみたく遅く、メール1件送るのもひと苦労。

 こうして文章を書いている今も、文字変換するたびに例のカラフルな『しばらくお待ち下さい』的な○印がくるくるくるくる回り出し、ぼーっと待ってるうちに急なブラックアウトに見舞われ、唐突に強制終了……。果たしてこの原稿を最後まで書き切り、無事に編集部まで届けることが出来るのか、とってもスリリングな状態でパソコンに向かっておるわけです。

 なにせここまで書くのにも普段の3倍はかかってますから。ほんっと、まともに進みゃしねー。1行書くごとにこまめに文章を保存して……って読者の方にはまるで伝わらないでしょうけど、もうマジで必死なんスよ。

「じゃあ、手書きにすりゃいいじゃん」ってみなさん普通に思うでしょ? でもね、こんなパソコンでも長年連れ添った愛しきパートナー。「行けるところまで付き合ってあげたい」という情けと、「伸るか反るかで船を漕ぎ出してやる!」という無駄な男気がわんさか胸に去来するのですな。

 今回ばかりは、わずか5日間で太平洋横断が頓挫した辛坊治郎さんみたく、『どの面下げて』な挑戦に終わるやも知れません。

 ああ、自分も物書きのはしくれ。こういう状況におりますと、徹夜して何十ページも書いた脚本のデータがパソコンの不調であっさり消し飛んだ苦過ぎる経験をついつい思い起こします。あの瞬間って、ほんと心が「すん!」ってなるのね。

 金がなかった若造の頃、当時の彼女に、「生理が遅れてるの……」って真顔で告げられた瞬間に匹敵するほどの「すん!」ですよ、あれって。その直後は平静を装って、「あ、そう」って涼しい顔をしてるけど、その実、すべての内臓が一気に下腹部に圧縮されたような、なんとも例えようのない心境で。しばらく経って「遅れてただけだったー」って彼女から報告を受けた時のガッツポーズといったら、往年のクロマティぐらいの勢いですよ。

 とある彼女なんか、暗い声で「大切な話があるの……」って電話してきて40分ぐらいそのまま黙り込むから、てっきりそっちの話かと思いきや、「他に好きな人が出来たの……」って言うもんだから、「どーぞどーぞ!」って思わずはしゃいだこともありました。

 で、何が言いたいかというと、早い話が、そんな「すん!」をこれまで幾度となく克服してきた俺ですから。今回だって、ほおら、書き切った!!! いつも以上に中身のない内容はさておき、こいつ(Myおんぼろパソコン)を信じて本当に良かったよ。

 あとはこのファイルを先方に送るという難関が残っているのだけど……無事にこの原稿が掲載された暁には、「おお。河原さんは一世一代の勝負に勝ったんだ」って意味なく感心してやって下さい。恥ずかしげもなく、よろしくっス!

週刊朝日  2013年7月26日号